この蒼い空の下で 弐

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まつさんと利家さんがイチャイチャし初めてから体感で十五分か二十分ほど経った頃に慶次が戻ってきた。慶次はイチャイチャする二人を見ても「利もまつねえちゃんも相変わらずだなぁ」とにこやかに笑ってた。だからこれがこの夫婦の日常で慶次からしたら対して珍しいことでも無いんだと分かった。

慶次は前田夫妻のことを誰もが憧れる夫妻だって言ってたけど、確かにそうかもしれない。さすがにこんなに大胆に人前でもイチャイチャするのには憧れないけど、結婚から何年経っても仲の良さは変わらない夫妻でいたいなって思うもん。


「まつさんと利家さん、本当に素敵な夫妻だね」


手綱を引く慶次の隣に並んで夢吉と戯れながら言うと、「だろ!」と慶次は自分のことを言われたくらい嬉しそうに言った。

「利はさ、まつねえちゃんと結婚するまでは俺と似てたんだよ。でもまつねえちゃんに恋をして、守りたい大切な人が出来たことで変わったんだ。俺が言うのもなんだけどさ、利は男としても前田家当主としても立派な奴だよ」

「尊敬してるんだ」

「まあな。あ、でもこれ、俺が言ってたこと利には内緒な?」


なんか照れくさいだろ? と笑う慶次に笑い返しながら利家さんには秘密ねと答えた。


「慶次、今それがしの話をしたか?」


私達の少し前を歩いていた利家さんが振り向いて聞いてきた。慶次と眼を見交わすと、慶次は楽しげに笑うと利家さんへと向き直った。


「利はまつねえちゃんに心底惚れてるって話してたんだよ」

「なんだ。そんな当たり前のことを話してたのか」

「まあ。当たり前だなんて」


利家さんの言葉にまつさんは両手を頬に当てて照れくさそうに、でもすごく嬉しそうに笑った。その姿からは見ているこっちも笑顔になるくらい幸せいっぱいというのがすごく伝わってきた。


「ほんとに素敵な夫妻だね。まつさんが羨ましくなっちゃう」

「美夜も恋をしたらまつねえちゃんみたいに幸せになれるよ」

「恋を、したら・・・」


無意識に隣を歩いていた政宗を見たことに混乱した。これじゃまるで政宗と恋をしたいみたい。そんなわけ無いのに。政宗はそういう相手じゃない。そういう相手だと思っちゃいけない。


「え・・・?」

「美夜」


自分で思っていることなのに違和感のようなものを感じて、それに戸惑ったせいで慶次に呼ばれても反応するのが少し遅れてしまった。


「あ・・えっと、なに?」

「恋はさ、時には苦しいことや辛いこともあるけど、でもそれ以上に良いことがいっぱいあるんだ。それに苦しいことも辛いことも、相手と一緒なら乗り越えることだって出来る。だから美夜も誰かに恋をしたら怖がらずに飛び込んでみなよ」

「飛び込む・・・」


また政宗の方を見ようとしたことに寸前で気付いて動揺した。まさか、本当に? でも、そんなこと・・・。


「・・・慶次。恋って、どうやって判断するの? どんな風になったら、それが恋だって、分かるの?」


本音を言えば聞くのは怖い。だけど、どうしても知りたかった。私が本当に、政宗に恋をしているのか、知りたかったから。


「恋をしたら、恋した相手のことを考えたり、側に居たりすると胸がドキドキしてくるんだよ。それに側に居られるだけでも嬉しくって、お喋りしたりとか二人で散歩をしたりとか、どんな小さなことでも恋した相手とすることなら楽しくて幸せな気持ちにもなるんだ」

「胸がドキドキして、一緒に居るだけで、幸せ・・・。ぁ・・・」


するりと、ごく自然にさりげなく、政宗が手を握ってきた。お互いの指が絡み合って、手全体に政宗の熱を感じる。

たったそれだけのこと。なのに、胸がドキドキしてきてずっとこうしていたいと思うほど、手を繋いでいることが嬉しい。

それは、慶次が教えてくれた『恋をしたらなる』状態とそっくりだった。



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