この蒼い空の下で 弐

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「独眼竜!」


部屋に居なかった独眼竜を見つけたのは昨日の仕合での破損を直すために運び込まれている木材が置かれている場所だった。大声で呼びながら駆け寄ると側に居た畑から戻っていた片倉さんも一緒に振り向いた。


「独眼竜、直ぐに美夜のとこに行ってくれ。家族のこと聞いたら様子がおかしく・・・」


言い終わる前に独眼竜は駆けて行った。独眼竜が行けばもう大丈夫のはずだ。美夜にとって一番の心の拠り所は独眼竜だと思うから。


「話を聞いたのか」


声量を抑えていたからそれが何に対して問いかは直ぐに分かった。独眼竜の背を見送っていた視線を片倉さんに移し、俺も声量を抑えて答えた。


「聞いたよ。それで思ったんだ。もしかして美夜だけが知らない事があるんじゃないかって。でなきゃ美夜のことを凄く大切に想ってる独眼竜が婚約を本物に変えたことに納得がいかないんだ」


俺の考えを聞いた片倉さんの口角が鋭いなと言うように持ち上がり、場所を変えるぞと仕種で示された。後に着いて行き、連れてこられたのは片倉さんの部屋だった。片倉さんの真向かいに座り、途中で戻ってきた夢吉と一緒に片倉さんにお願いした。


「片倉さん。美夜が知らない事が何か教えてほしいんだ。もちろん俺が知っても良いならだけど」

「・・美夜が知らねぇ何かがあるとして、それを聞いてどうするつもりだ?」

「一日でも早く独眼竜と美夜の祝言が挙げられるよう協力させてほしいんだ。二人はお互いに相手のことを強く想ってる。少し見てるだけでそれが凄く伝わってくるんだ。それなのに式の日取りさえ決められないなんて悲しいよ。だから手伝いたいんだ。幸せだって笑える未来が来るように」

「真田とは別の意味で熱い男だな。なぜそうまで熱くなれる。お前にとっては政宗様も美夜も、所詮は他人だろう」

「他人とかそんなの関係無いよ。俺は独眼竜も美夜も好きなんだ。夢吉も美夜のことを気に入ってる。理由なんてそれで十分だろ?」


言い切った俺を見て、小十郎さんは「真っ直ぐな奴だな」と微少した。


「良いのか? 長く一つ所に留まっても。どうせ今回もあの夫婦の許可無く飛び出して来たんだろう」

「う・・・。だ、大丈夫だよ。まつねえちゃんも利も話せば分かってくれるからさ。あ、でもヤバかったら口添えしてくれないかな。ちょっとだけで良いんだ!」


お願い! と顔の前で手を合わせると片倉さんは呆れながらも「お前の働き次第だな」と言ってくれた。


「ってことは教えてもらえるってことかい?」

「その前に一つ確認だ。話を聞いたきっかけは何だ。美夜から話があると言われたのか?」

「違うよ。独眼竜から詳しいことは美夜から聞けって言われたんだ」

「そうか。なら話しても問題は無いだろう。分かってるだろうがここでの話は他の者には勿論美夜にも一切話すな。絶対にだ」

「分かってる」


俺がはっきりと頷いたのを確認してから片倉さんは美夜が知らない話を教えてくれた。だけどそれは美夜が異世界から来たって事実よりももっと衝撃的で、そして悲しくて辛い話だった。


「元の世界に帰れない上にこのままじゃ生きていくことも出来ないなんて、そんな・・・」

「嘆く気持ちは分かる。が、嘆いてばかりいても好転はしねぇ」

「そうだけどさ」

「それに、美夜がこの世界に残る覚悟を決めれば魂は定着し、政宗様への想いを自覚すれば遠からず祝言を挙げることも叶う。そして夫婦になればいずれは子が出来る。それは新しい家族が出来るということだ。違うか?」

「あ・・・」

「元より女は家を出て嫁いで行くものだ。美夜の場合は永遠に家族と会えねぇが、その寂しさや辛さを埋めてくれる存在が居る。ならば後は美夜の気持ちだけだ」

「そっか、そうだよな。辛いことばかりじゃないんだよな。美夜は恋をしてるんだから」


家族や友人にはもう二度と会えない。だけどどちらも新しく築いていける。美夜が寂しさや辛さを感じても、それ以上の楽しさや幸せに包まれるようにまずは美夜と友達になろう。そして美夜の中の恋心を表に出させてあげよう。


「片倉さん。俺、頑張るよ」


独眼竜と美夜の幸せのために。



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