この蒼い空の下で 弐

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「一緒には、行かない。お館様にもまた会いたし、約束もしたから遊びに行けたらなって思うけど、そこでずっと暮らすかって言われるとこっちが良いなって、思うから」

「こっちってのはこの城のことか?」

「ううん」

「違うのか? ならどこのことだ」

「お城じゃ、無くて、その・・・政宗の、側が、良い」


言ってるうちに気恥ずかしくなって、俯きがちに伝えたら、政宗からピリピリした雰囲気が消えた。そろそろと見上げると、政宗は本当に嬉しそうな笑みを浮かべていて、トクンと鼓動が跳ねて頬に熱が上ってきた。


「ぁ・・・」


手を、握られた。初めてってわけでも無いのにドキドキして落ち着かなくなる。


「あ、あの・・・」

「なんだ? ああ、もう一つ残ってたか」

「え? あ、幸村の、こと?」

「ああ。あいつのこと、どう思ってんだ?」

「ど、どうって、友達と思ってるだけだよ。佐助が言ってたみたいに幸村と話すのは楽しいし、警戒しなくていいから安心して側に居られるけど、でもそれは幸村に対して『特別』な感情を抱いてるのとは違う気がするの。男の友達は初めてだから、そういう意味の特別なら特別なのかもしれないけど」

「そうか」


私の手を握る政宗の手の力が少しだけ強くなった。鼓動がまた少し早くなる。気恥ずかしくて、いたたまれなくて、今すぐこの場から逃げ出したい。でも、このままで居たい、とも思っている。

政宗と一緒の時だけ起こる矛盾した気持ち。『特別』というのは、むしろこういう気持ちなんじゃないのかと思った。


「美夜」

「な、なに?」

「kissしてぇ」

「え・・は、き、って、えぇっ!?」

「嫌か?」

「い、嫌っていうか、駄目っ!」

「三つ数える間だけでもか?」

「駄目! 絶対駄目っ! 一秒でも駄目! そんなことされたら絶対に心臓止まっちゃうもん!」

「なら、ここなら良いか?」


手を握っているのとは別の手が頬に添えられ、親指が唇の端に触れてきた。そこも駄目と首を横に振る。もう頬どころか体全体が熱い。


「お、お願いだから、しないで」

「無理だ。本当ならkissで終わらせたくねぇくらいお前が欲しいんだよ」

「え、あっ」


手が離れ、腰に回され引き寄せられたかと思ったら上体を倒された。押し倒され、政宗に見下ろされる。ようやく正座から解放された足が痺れているはずなのに、私を見詰める政宗の視線の甘さと熱さに苦しいほどに心臓が暴れていて足の痺れを意識する余裕が無い。


「ま、まさ、むね」

「今はkissだけで我慢してやるんだからお前も少しくらい我慢しろ」

「そ、そんなの、無理」

「無理でもしろ」


するりと頬を撫でられ、唇の端にも触れられた。政宗の顔が近付く。思わずぎゅっと瞼を閉じると唇の端から親指が離れ、変わりに指よりも柔らかくて熱いものが押し当てられた。


「美夜」

「っ!」


押し当てられたまま名前を囁かれ、その声にも今まで感じたことの無い甘さと熱があった。

瞼を閉じているのに目眩がする。ドキドキし過ぎて苦しくて、息の仕方を忘れてしまったかのように上手く吸えない。

畳の上に投げ出されていた手に、長く筋ばった手が指を絡めてきた。離さない、というように強く握られる。

覚えているのはそこまでで、遠退く意識の向こうで政宗が何かを囁いた気がしたけれど聞き取ることは出来なかった。



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