この蒼い空の下で 弐

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「ねぇ慶次。さっき本物の天女のお姫様って言ってたけどどういうこと? 私が聞いた噂は天女みたいな絶世の美少女ってのなんだけど」


『みたい』と『本物』では意味が全く違う。慶次の聞き違いか言い違いであってほしい。


「俺が聞いたのだと・・」

「話は座ってからにしろ」


慶次を遮った政宗が、言いながら顎で店先の方を示した。そこには大きな深めの器の乗ったお盆を持った店員のおばちゃんが困惑気味に立っていた。そういえば幸村が善哉を五人前頼んでたんだったっけ。

キラキラと眼を輝かせた幸村がおばちゃんから善哉の入った器を受け取ると、せっかくだしと慶次もお団子を一人前注文した。

私も座ろうと思って、まだ政宗に抱きしめられたままだったのを今更ながらに思い出した。途端に落ち着かなくなってドキドキしてくる。


「ま、政宗。私も座るから」

「前田、そこが空いてる」


軽く体を押して離してと伝える私を無視した政宗は、自分の隣を慶次に進めた。さっきまで私が座っていた席だ。政宗はもちろん、私の食べかけの善哉が置いてあるから慶次だってそのことには気付いただろうに、「じゃあ隣失礼するよ」とにこやかに笑いながら座った。

慶次は隠れ意地悪だったのかとショックと驚きで慶次を見ていたら、腰を下ろした政宗に体を引き寄せられ膝に座らされた。


「ちょっ!」

「なんだ」

「なんだじゃないわよ! この体勢は何!」

「何か問題でもあるのかよ」

「ありまくりよ!」


政宗とこんな密着してたらセクハラされ放題だし何よりドキドキして落ち着かない。こんなに心臓に悪い席は世界中を探したってどこにも無いと思う。

離れようと政宗の胸に両手を置いて突っ張るけど腰に回された政宗の腕はガッチリ私を捕まえ離してくれない。こうなりゃ腕を引っ掻いてでも、と思っていたら幸村が険しい顔で立ち上がった。


「政宗殿! 美夜は嫌がっているでござる! 女子が嫌がることをするなど男としても武士として恥ずべき行いであろう!」


台詞は幸村らしいのに、なぜからしくないと感じた。何でだろうと考えて、気付いた。いつもの幸村なら多分、真っ赤になって破廉恥って叫んでそうだからだ。私が政宗に唇の端を舐められた時みたいに。


「幸村?」


どうしたのと言外に込めて名を呼ぶと、幸村はハッとなって戸惑うように視線をさ迷わせた後、何でもないと言って席に戻った。自分でもなぜあんなに怒ったのか分からないみたいなのが表情に現れている。


「幸村どうしたのかな?」

「さぁな。腹でも減ってたんじゃねぇか?」


投げやりな言葉。なのにどこかとなく警戒を感じる声。視線も警戒を滲ませながら幸村に向けられている。さっきも思ったけど、政宗も変だ。


「まひゃぁっ!」


政宗と呼ぼうとしたらいきなりギュッと抱きしめられた。恥ずかしさに体は強張るのに心臓だけは今にも壊れそうなほどに暴れだす。


「お前抱き心地良いよな」

「は、はへ?」

「膝枕も良いが抱きながら寝るのも良さそうだな」

「うえぇ!?」


これ冗談? それとも本気!?


「う〜ん。どうやら複雑なことになってるみたいだな、夢吉」

「キッ」


抱き枕発言に悩んでいたらよく分からない会話をする慶次と夢吉の声が聞こえてきた。



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