この蒼い空の下で

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「話には聞いていましたが、実際に見ると自分の目を疑いたくなってしまいますね」

「だよな。聞いてなかったら酔ってると思うとこだよ」

「政宗様。時刻は昨夜と同じですか?」

「ほとんど同じだ」


月の位置で時刻を確かめていた視線を美夜に戻す。日付が変わる頃に起きる異変。美夜の意識が戻るまではっきりとは分からないが、目許や頬から赤みが引いていることから酒は抜けているだろう。たった一瞬のうちに抜けた。それとも『消えた』のか。


「ん……」

「気分はどうだ」

「気分? ……わぁーっ!」


ついさっきまで酔っていたとは思えないほど俊敏な動きで起き上がると襟を押さえて走り去っていった。美夜らしいと言えばらしい反応だから先程見た光景への驚きが残る面々は呆気に取られたように黙り込んだ。


「……今の、なに?」

「酔っていた間の記憶が残っていて羞恥で逃げ出したのでは?」

「だろうな。今頃一人で騒いでるだろ」

「とにかく、これでいくつか確証が持てましたな」


小十郎の言葉に全員の表情が改まる。日付が変わる頃、美夜は体が一瞬だけ透け、気配が消える。その際美夜の意識があれば強制的に意識を失う。そして異変の前に体に傷であったり酔いであったり、何かしら不調があればそれらは全て無くなり正常の状態になる。


「でもさ、なんであんなことが起きるのかは分からないまま…」


途中で成実が話すのを止めた。理由は聞かずとも全員が察している。すぐにパタパタと軽い足音がして着物を乱したままの美夜が戻ってきた。


「さ、さっきのあれだけど! あれは酔ってたからであって私の本心じゃないからね! 綱元さんに言えって言われたから言っただけだからね! 食われたいなんて全っ然思ってないからっ!」


少ない光源でも分かるほど首まで赤く染めながら叫ぶと美夜はまた走り去って行った。


「いつもの美夜ちゃんだ。さっきの美夜ちゃんが恋しいかも」

「成実」

「殴んのは無しだからな!」

「殴られるようなことをしている自覚があるなら考えて喋れ」

「へいへい。時と場合を選べってことだろ? でもさぁ、なんであんなことが起きるのかなんて分かんねえじゃん」


お手上げとばかりに肩を竦め投げ遣りにも感じられる態度の成実に小十郎が微かに眉間に皺を寄せた。強面で厳しいが根は人情味に溢れた男だから美夜の境遇に少なからず同情しているのだろう。


「何か手掛かりがあれば良いのですが」

「この世界へ来る直前のあいつの記憶が手掛かりになるのかもしれねえが……」

「ではそれを聞けば、」

「無理だ。何も覚えてねえらしい」

「記憶の一部欠如、ですか。そうなる原因と似たような事に遭遇すれば思い出すこともあるそうですが……」

「それが何か分からねえからな」

「八方塞がり、ですな」


沈黙が場を満たした。



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