この蒼い空の下で

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抵抗が無くなり体から力を抜いた美夜に、最初は諦めたのかと思った。だがすぐに力無く足れ下がった頭を見て違うことに気付いた。体を反転させれば案の定美夜の意識は無い。まさかあれだけで意識を飛ばすとは。普段の言動を考えれば怒鳴るなり叫ぶなりするかと思っていたが、などと呑気に考えていた俺の目の前で信じられないことが起きた。


「っ!」


一瞬だけ、美夜の体が透けた。そしてその間、美夜の気配も完全に消えた。瞬きほどのたった一瞬の出来事。見間違いか。自分自身に問い掛ける。答えはすぐに出る。答えはNO、だ。

透けた美夜の体越しに抱えている自分の左腕が見えた。何より、長年鍛えてきたSenseは確かだ。気配を読み違えることは無い。紛れもなく美夜の体が一瞬だけ透け、気配が消えた。


「ん……ん? ――もしかして、私また気絶しちゃってた?」

「…ああ、まだ体の調子が戻ってねえんだろ」

「そんな感じしないんだけどなぁ。むしろ気絶する前まではまだちょっと体が怠かったくらいなのに」

「今は違うのか?」

「うん。全然怠くない。元気いっぱいな感じ」

「………」

「どうしたの?」

「なんでもねえ。それより、今夜はもう休め。怠さが無くなったからといって倒れたことまで無くなるわけじゃねえからな」


美夜の頭にぽんと手を置いてから部屋を出た。背後でようやく今の自分の格好に気付いて騒ぐ声が聞こえてくる。あの様子なら確かに体の心配はいらないだろう。問題は、さっき見たアレが今夜だけ起こったことなのか、それとも毎晩起こっていることなのか。他にも気になることがある。

気絶する前と後とで起こった体調の変化。前にも美夜の体は軽傷だったとはいえ完治までに数日は掛かるだろう怪我がたった一晩で治ったことがあった。

それらと体が一瞬透けたことに関係があるのか。もし関係があるならなぜそのようなことが起こるのか。このことは美夜が産まれ育った世界から異なる世界へ飛んだことと何か関係があるのか。気になることはいくつもあるが、情報があまりにも少な過ぎる。

一番有益な情報として考えられるのは美夜がこちらの世界へ来る直前に何があったのかだが、以前に帰る方法を知る手掛かりがあるかもしれないと思い聞いたことがあったが美夜は何も覚えていないと言っていた。本人が覚えていない以上こちらがそれを知る術はない。


「とりあえず、小十郎にも話しておくか」


後のことはそれからだ。



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