この蒼い空の下で

□10
4ページ/4ページ


―――――

「あーらら。完全に眼回しちゃってるよ。なんで一人も侍女が側に居ないわけ?」


おかげで俺様が出てくる羽目になっちゃったじゃん。ま、今のこの子の状態なら姿見られる心配は無いけど。いや、と思った。入浴の間というのも思わず気を抜いてしまう場所の一つだ。だからちょっと大胆に壁越しに観察してみたけど気付く素振りは全く無かった。気付いていない振りをしていたのなら逆上せるなんて間抜けで危険なことはしないものだから俺の存在には全く気付いていなかったのは確かだろう。

ただ、こんなに間抜けなのに一人にしているのが気になる。独眼竜に突然出来た許婚。実家はどこの家でどこの勢力なのかを調べに来たけど立ち居振舞いやこの間抜けさ、側に侍女さえ居ないことを考えるとそれなりの家の出の人間じゃないってことなのか。ある程度の身分ならこの間抜けさを補うために侍女なり護衛なりを一人くらいは付けるはずだ。それだけの人間を揃えられない家の出か、それとも付ける必要が無いと思われているのか。

後者は無さそうだな。この子、大切に育てられてきた子だ。顔立ちの柔らかさがそれを物語っている。私っと、誰かこっちに来るな。

気配がこちらへと近付いてくるのに気付いて視線を脱衣所とを繋ぐ木戸に向ける。気配も消さずに女の入浴中に浴室に来るとしたら長湯した彼女の様子を見に来た侍女かもしれない。どのようにも動けるように体勢を整える。程なくして木戸の向こうで気配の持ち主が立ち止まった。


「美夜様、まだご入浴中でございますか?」


思った通り様子を見に来た侍女らしい。一応収穫はあったし、後のことは任せてさっさと退散するに限る。この子の面倒を俺様が見る義理も義務も無い。それに竜の旦那もその右目の旦那も揃ってる状態で長居するのは危険過ぎる。たとえ見つかっても逃げ切る自信はあるけど、余計な騒ぎを起こす必要はない。この後騒ぎは起こるだろうけど。

ぐったりしている美夜ちゃんを見下ろし、その顔が湯の中に沈まないようそっと浴槽の縁に頭を預け、外にいる侍女にまだ美夜ちゃんは中に居ることを教えるために軽く水面を叩いてパシャンと水音をさせてから素早く浴室の窓から外へと出て身を隠した。


「美夜様? まだ中にいらっしゃるのですか? 入りますね?」


案の定水音はすれど中から返事が無いことを不審に思った侍女が木戸を開けたのはそれから数拍のち。彼女の状態に気付いた侍女が悲鳴を上げ、他の侍女も集まり騒がしくなってきたのに紛れるようにして城を離れた。


―――――


「……鼠が入り込んだようですな」

「どうせ美夜のことを探りに来ただけだろ。探られて都合の悪ぃことは何も無ぇんだ。放っておけ」


政宗様の言に短く了解の意を返す。が、城内の一角、それも湯殿のある辺りがざわつきだしたことに気付くと政宗様と視線を合わせ、同時に立ち上がり騒ぎの元に急いだ。


「どうした! いったい何があった!」

「片倉様! それが、美夜様が湯中たりなさってしまったようで」


行き会った侍女に問い質して返ってきた答えに、騒ぎの理由が侵入者とは関係の無いものだと分かり張り詰めていた気を緩ませる。


「ったく、湯中たりるまで入ってるなんてどこまで馬鹿なんだよ」


呆れながらも湯殿へと向かう政宗様を見送り、美夜を休ませるために部屋を整えるよう侍女に指示を出した。



次の章へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ