この蒼い空の下で
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みんなで政宗の部屋に移動してもまだ政宗は私の方を不機嫌そうに睨んでくる。けど私の隣には小十郎さんが居るからぜーんぜん気にならない。やっぱり座るなら小十郎さんの隣だね。
「なんで私は政宗の許婚のふりをさせられてるんですか?」
ちゃんと話してくれるのは小十郎さんだろうと思って小十郎さんに聞いてみた。
「そうだな。どこから話すか……。薄々気付いているやもしれんが、政宗様には未だ正室はおろか側室の一人もいらっしゃらない」
「えっ!? そうなんですか!? 私てっきり側室の十人や二十人は居ると思ってました!」
「テメェ俺をなんだと思ってんだ!」
「女を虐めて楽しむドS野郎」
「お前以外にはしねえよ!」
「私にもするな!」
睨み合う私達に小十郎さんがため息を一つ吐いて「続けるぞ」と言った。
「年頃の娘を持つ家にとって政宗様は格好の婿候補だ。だから縁談話は数多い。断ってもそれで引く者はほとんど居ない」
「なんで断るんですか? 後継ぎ問題とかないんですか?」
「もちろんある。重臣の間でも一日も早く世継ぎをと望む声は多い。が、」
「俺はまだ誰も娶る気はねえ」
「なんで?」
「俺はいつか天下を取る。今はそれ以外を考えるつもりはねえ」
不敵な笑みを浮かべながら政宗は言った。全身から天下を取ることへの自信が溢れ出しているのが分かる。その姿は天下を望むことが全く理解出来ない私ですら引かれてしまうほど眩しく見えた。
「でも政宗が結婚しないことと私が許婚のふりをすることとなんの関係があるの?」
「さっき小十郎が言っただろ。断ってもしつこい奴が多いってな」
「だからそれがなんで許婚のふりになるわけ? 側室ってことは一夫多妻制なんでしょ? なら私一人が居たって意味ないんじゃないの?」
「確かにな。だが公表している許婚が居る間はおおっぴらに自分の身内を進めてくることはねえんだよ。しかも城に住まわせてるとあれば尚更だ」
「結婚間近の女性がすでに側にいる状態で次の女を進めるようなことをすればそれは相手方を軽んじていることになり非常識だと周囲から冷たい目で見られ評判を落とすことに繋がるんだ」
「へぇ〜、そうなんだ」
ついでに付け加えると異世界から来た私には当然身内も居ないからふりだけじゃなくて本当の許婚にとかふりをした見返りに出世などを望む身内も居ないから都合が良いらしい。それに政宗自らが選んだ女、とすることで私の素性を深く詮索されることも防いでいるらしい。
このことを知っているのはここにいるメンバーの他は私付きに命じられた数人の侍女さんだけらしい。なるほど。だから毎日綺麗で高そうな着物を着せられてたのか。高そうな着物が毎日着られるなんてラッキー! くらいにしか思ってなかったよ。
でもさ。これって私思いっきり利用されてるんじゃないの? ここに住まわせてもらう条件にこんなの含まれてなかったよね?
「美夜、お前には悪いが、帰るまで政宗様の許婚のふりを続けてほしい」
「えぇー」
「嫌か?」
「うー……ちなみにですけど、許婚としてなんかしなきゃならなかったりするんですか?」
「特には無い。許婚の段階では公の場に出る機会はほとんど無いからな。あったとしても体調を崩したとか何かしら理由付けすれば無理に出る必要は無い。他にあるとすれば強いて上げるなら政宗様と仲が良い所を周りに見せることだが……」
「えっ! そんなの無理! こんなセクハラ野郎と仲良くなんて無理だしそもそも仲良くなんてしたく無いです!」
「安心しろ。今のままで構わん。なにせ政宗様が美夜を構う姿は周りには二人が相当に仲が良いようにしか映っていないようだからな」
それってようするにイチャついてると思われてるってこと? うげー。
「まさかそんな風に見られていたとはな」
「うわ、嫌な予感」
「これからも楽しませてもらうぜ、美夜?」
助けを求めて小十郎さんを見たけど苦笑しながら我慢してくれと言われてしまいました。さっきまでは政宗を怒ってたじゃないですか! 小十郎さんに見捨てられたら誰に助けを求めたら良いの!?
続