この蒼い空の下で
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もやもやした気持ちのまま城門を潜り抜け、本丸に向かいながら城内がざわついていることに気付いた。覚えている限りでは城内がこんなにざわついたのは政宗達の出陣の時くらい。あの時は緊迫感も感じたけれど、今夜のお城は真逆の浮ついた空気に包まれているように感じる。
「こっちの認識以上だな」
「え?」
呟きが聞こえて振り向いて見た政宗は、驚きと感心の混ざった顔を私に向けていた。
「美夜ちゃんて凄いねー。俺様これには素直に感服しちゃうよ」
「は?」
今度は佐助がいきなり妙なことを言い出した。幸村がその言葉に同意する声も聞こえた。私は何にもしていないのに何のこと? 佐助と幸村の方を向こうとして首を捻った時、視界の端に何か気になるものが映った。
「ん? あれって・・・えぇっ!?」
塀の上に何人もの兵士さんが居た。暗くてもそうだと分かったのは兵士さんの一人が松明を持っていて、その兵士さんの隣にいた人がリーゼントだったから。
お城の塀は高い。簡単に登るなんて出来ないはずだ。わざわざ梯子を持ってきたってこと? 何のために? それは直ぐに判明した。
私の声は兵士さん達にも聞こえていたらしく、塀の上という誰がどう見ても危ない場所に立つとこっちに向かってブンブン手を振ってきた。
「ひーめさーん!」
「お帰りなさいっすー!」
松明に照らされた兵士さんの表情はどの人も喜びに溢れたもの。中には泣き出す人までいる。しかも次々と塀の上に登ってきては私へと手を振ってくる。
それだけじゃない。城内のあちこちから人々のざわめきと共に足音が聞こえ、あっという間に私達は囲まれてしまった。
集まったのは兵士さんだけじゃない。台所で働いているのを見掛けたことがある人も居たから下働きの人達も集まっているみたいだし、侍女のお仕着せを来た人達もいる。
城中の人が集まっていると言っても過言じゃないと思う。そしてみんなが私に向けておかえりと言ってくれる。
「なんで・・」
早く会いたいとは思っていたけどだからと言ってまさか城中の人からこんなに温かく迎えられるなんて想像すらしていなかった。嬉しい半面どうしてと戸惑ってしまう。
「お前、普段から誰に対しても気軽に話し掛けてただろ」
グッと抱き寄せられ、政宗が小声で私の疑問に答えてくれた。頷くと、ふっと政宗が笑った気配がした。
「あいつらはそれが嬉しかったんだよ。身分を気にせず気さくに接してくれる心優しい姫だ、ってな」
「そんな。だって、それってきっと私がこっちに来るまで身分とか気にしたことなかったから、だから」
「だとしてもだ。お前のここに、あいつらは引かれたんだよ」
ここ、と政宗が私の胸に手を置いた。変な意味が無いからか、恥ずかしいだとかセクハラだとかは全く思わない。
政宗の手の上から自分の手を重ねる。その手の甲にぽたりと滴が落ちた。
好かれたくてやってたわけじゃない。何気なくしてただけ。ただそれだけなのに。
「ぅ、ふぇ」
嬉しくて、涙が溢れた。後ろから政宗が親指で滴を拭ってくれるけど、後から後から涙は溢れて政宗の手も濡らしていく。
「美夜、泣くのは後にしろ。あいつらに言うことがあるんじゃねぇか?」
叱る口調。でも優しさしか篭ってない。
頷いて、目許をごしごしと擦る。それでも涙は止まってくれなかったけど、構わず前を見た。涙でぼやける視界が、瞬きした一瞬だけクリアになって泣き出した私を心配そうに見るみんなの顔が見える。
大丈夫だから。これは嬉しくて泣いてるだけ。
零れそうになる嗚咽で震える唇を何とか笑みの形にした。そして、
「ただいまっ!」
思っていたよりも声は響いてくれた。一瞬の静寂の後に、示し合わせたわけでもないだろうにみんなの声が合わさった。
「おかえりなさいませ!」
続