この蒼い空の下で

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上手いごまかし方が無いか考えていたら、突然腰を引き寄せられ、左手を取られた。何するんだと政宗を睨むけど、政宗はなぜか挑戦的な笑みを浮かべながら幸村を見てた。


「真田、これは虫刺されじゃねぇ。こうやって付けるんだよ」

「ちょっ、何、っ」


左手首の内側に政宗が唇を寄せた。心臓が跳ねて顔に熱が集まってくるのと同時に、政宗の唇が当たっている部分に覚えのある小さな痛みを感じた。


「ま、政宗殿、何を!」

「見ろ」

「だ、だめ!」


注意しても左手は政宗に掴まれたままで、言った時にはもう政宗に付けられたキスマークを幸村に見られてしまっていた。けど、多分幸村しかしないだろう反応が返ってきた。


「政宗殿! 女子の体に傷を付けるなど武士としてあるまじき行為でござるぞ!」

「・・・・おい、こいつはマジで言ってんのか?」


奥手とか純情って言葉からは程遠いドスケベでエロい政宗には幸村の反応が信じられなかったみたい。聞かれた佐助は苦笑しながら「マジだったりするんだよねー」なんて答えて、それを聞いた政宗は信じられないものを見る目を幸村に向けた。


「どういう育ち方したらそこまで無知に育つんだよ」

「某が無知とはどういうことでござる!」

「そうだよ! 幸村は無知じゃなくて奥手で純情なだけだよ! 政宗がスケベ過ぎ、る・・・」


掴まれたままの手の平にちゅっとキスされた。不意打ち過ぎて最初はポカンと見つめるだけで、でも目が合った政宗がニヤッと笑ったことで頭が状況を理解した。直ぐに沸騰したみたいに顔は熱くなるし頭はパニック状態になったけど。


「なにこの程度で赤くなってんだよ」

「う、うっさい!」


悔しいし恥ずかしいしで離れようともがくけど、いつもの如く逃げられない。それどころか逃げたくてもがいてたはずなのに、気付けば政宗と向き合う形になっている。

手を突っ張ればその手を掴まれ指先にキスをされ、体を捻れば首筋にキスされる。恥ずかし過ぎて心臓が壊れそうなほどに暴れてる。そのせいで息がうまく出来ない。

頬に手を当てられ、酸素を求めて喘ぐ唇を親指でなぞられた。なんだか政宗の私を見る目が熱っぽく感じて、落ち着かない気分になってその視線から逃れようとギュッと目を閉じた。

くいっと顔を上向けられた。次は何をする気なの? これ以上何かされたら倒れそうなんだけど! と、思った途端にバタッと倒れる音がした。

私、まだ倒れてないんだけど。


「あーあ、やっぱり目ぇ回しちゃったよ。牽制すんのは勝手だけどほどぼとにしてくんない?」


呆れと非難の口調の佐助の声にそろそろと目を開けて後ろを見たら、びっくりするぐらい真っ赤になった幸村が後ろ向きに倒れてた。


「ちょっ、幸村大丈夫!?」


幸村の様子が気になって、側へ寄ろうとしたけど政宗はこの状況になってもまだ私を離そうとしてくれない。ムッとなって強引に腕から逃れようとしたらふわっと体が浮いた。

え? と思った時には政宗の肩に担がれ、私がお風呂に入っている間に敷かれた四組の布団のうち、一番端の布団にぽいっと投げるように降ろされた。


「明日は陽が登る頃には出発だ。寝坊しねぇようにさっさと寝ろ」


いきなり変わった展開に軽く戸惑いながらも体を起こした時にはもう部屋を仕切る襖を全て閉められてしまっていた。

今のは何? いくら何でも強引過ぎる。なんだか私を幸村に近付けさせたくないように思えてしまう。政宗は幸村が嫌い? でも道中は普通に喋っていたし気が合っているようにも見えた。

なら、なんで?

襖を少しだけ開けて隣の部屋を覗いた。佐助が倒れた幸村を扇ぎながら政宗に何か言っているけど、声を抑えているのかボソボソとしか聞こえない。

政宗は聞いているのかいないのかといった態度で、その様子に佐助がため息をはいたのが肩の動きで分かった。

ちょうどその時、小十郎さんが戻ってきた。襖が閉まっていることに気付いてこっちを見た時に目が合った。どう見ても覗きをしていたとしか思えない見方だったから、気まずく感じて引き攣りながらも笑みを浮かべておやすみなさいと言って襖を閉めた。

出発が早いなら確かにもう寝た方が良い。苦笑してそうな小十郎さんからの返事を聞きながら布団に潜ったけど、政宗が幸村をどう思っているのか気になって中々眠れなかった。



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