この蒼い空の下で
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陽は暮れているといっても寝るには早いからか、布団に入っていても中々眠気が来ない。ごろごろと何度も寝返りを打って、寝るのを諦めようかなと思いはじめた頃、障子が開けられたのか冷気が流れ込んできた。
月明かりが逆光になって顔は分からないのに、何となく誰なのか分かった。
「政宗?」
「sorry. 起こしちまったか?」
「大丈夫。起きてたから」
私が布団から出る間に、政宗は火鉢の中を構って火を熾こしてくれた。それでも白小袖だけじゃ寒いから、衣桁から着物を取って羽織ってから側に座った。
明かりは消しているけど月明かりのおかげで物の位置が分かるくらいには暗くない。
「宴、終わったの?」
「まだ続いてるが、後は小十郎だけでも平気だ」
「そうなんだ」
それでもわざわざ抜け出して私の所に来たのは何か用があるからなんだろうと政宗を見る。と、何の前触れもなく抱き寄せられ、首筋に顔を埋められた。恥ずかしさにぎゅっと眼を閉じるけど、政宗の髪から微かにお酒の匂いがするのに気付いた。
「よ、酔ってるの?」
「あの程度じゃ酔わねぇよ」
あの程度、と言われても宴に出ていない私にはどの程度か分からない。微かにとはいえ髪に匂いが移るくらいには飲んでると思うから、そう考えると酔っ払ってる可能性はあると思う。政宗がお酒に強かったら別だけど。
どっちだろ、と判断に迷っていたら、私の首筋に顔を埋めたままの政宗に名前を呼ばれた。
「なに?」
「お前は何でこんなに甘いんだ?」
「ひゃっ!」
首筋を舐められた。これは完全にセクハラだ! しかも甘いなんて訳分かんないこと言ってきたから絶対に酔ってる!
酔ってない状態でのセクハラもヤバイのに、酔ってたら理性とか大切な部分がどうなるか分からない。早く逃げなきゃともがくけど、政宗の腕の力は強くて逃げられない。
そうこうするうちに押し倒され、襟の合わせから手を入れられた。ヤバイ。これってこのままじゃ貞操の危機になるんじゃないの!?
「小じゅんむっ」
政宗の分もまだ宴に出てるはずの小十郎さんに届くくらいの大声で叫ぼうとしたら、素早く口を塞がれてしまった。
酔ってるにしては機敏な動きに感じたけど、耳の裏近くを舐められ「ここも甘い」と呟くのが聞こえたから、政宗が本当に酔っているのかふりをしてるだけなのか分からなくなった。
どっちにしろセクハラはセクハラだから逃げたいことに変わりはない。必死になって暴れるけど、いつものように簡単に抑え込まれてしまう。
「んっ!」
首筋に微かな痛みを感じた。そこから少し下がった場所にもう一度。そして乱されて露になった鎖骨にも一つ。そうしてから政宗は私の口を塞いでいた手を離して体を起こした。
「今日はこのくらいで許してやる」
「その言い方! やっぱり酔ってなかったのね! っていうか許してやるって何よ! 私何にも悪いことしてないじゃん!」
「真田と逢い引きしただろうが」
「それの何が悪いのよ!」
「お前は俺のものなんだよ」
真っ直ぐに見つめられながら言われて、なぜかドキッとなって顔が熱くなった。落ち着かない気分になって視線を逸らしてぼそぼそと私は私のだもんと言い返したけと、俺のものだ。とはっきりと断言されてしまった。
「か、仮にあいびきが悪かったとしても三つも付けることないじゃない!」
「あとの二つは無自覚なのとふざけた絵の仕置きだ」
「無自覚って何がよ。って、え? ふざけた絵って、まさか・・・」
「見たに決まってんだろ」
「み、見てなかったふりするなんて性格悪い!」
ニヤッと笑った政宗を思いっきり蹴ってやった。そのせいでさっきとは反対側の首筋や鎖骨、胸元にまでたくさんキスマークを付けられた。
絵のことは悪かったと思うけど、それ以外は私は悪くないんだからね! 絶対に仕返ししてやるから覚えてろ!!
続