この蒼い空の下で

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「させるかぁー!」


何ヶ月もセクハラから逃げ続けていた私を舐めるなよ!

襟を乱される寸前、ふんっ! と勢いをつけて体を捻った。襟を掴まれたままだったから少し乱れてしまったけど、この程度なら許容範囲内だ。これ以上乱されないよう胸元で両手をクロスさせて俯せになる。


「それで防げたつもりか?」

「わっ!」


お腹の下に手を入れられそのまま持ち上げられたかと思えば抱きしめら、ちゅっ、という音が聞こえてこめかみに温かい何かが触れた。びっくりして政宗の方を見ようとしたら今度は頬に。ビクッとなって固まったら唇の端に。


「次はどこが良いんだ?」


腰にクる低い声で囁かれ、人差し指が唇に触れてきた。猛烈な恥ずかしさに襲われてきゅっと唇を引き結び瞼も閉じて体を丸めた。それでも政宗は人差し指で私の唇を触るのを止めてくれない。それどころか唇以外のいろんなところにキスしてくる。

あまりの気恥ずかしさにさらに体を丸めようとしたら、頬に手を当てられ横を向かされた。眼を閉じていても、吐息で政宗の顔が近いことが分かる。


「美夜」


名前を呼ばれただけなのに、甘いお菓子を食べたような気になった。胸の辺りがきゅうっとなって、切ないような苦しいような感覚がする。耳の真横に心臓があるかのように鼓動がうるさい。

恥ずかしさに耐え切れなくなって逃げようと胸元から手を離した隙に、襟の合わせからするりと手を入れられた。

しまった! と引き抜くために政宗の手を掴む。けど、あれ? と思って引き抜こうとする動きが止まった。

政宗は指先で胸元を触ってきたけど、手つきがなんとなくいつもと違う。なんていうか、何かを探っているような気がする。でも私は胸元になんてお守りくらいしか入れてない。

お守りの石が見たいのかなとも思ったけど、政宗の指がお守り袋を避けながら動いているから違うと思う。じゃあ何を探ってるの?

政宗の変な行動に首を捻っていたら、体を反転させられ向き合う形になった。そして今度は抗う間も無く帯が緩み胸が完全に露になってしまうほど大きく襟を開けられてしまった。叫ぼうとして、でも政宗の呟きが聞こえて羞恥より怒りを感じた。


「無いな」

「っ! どーせ私は巨乳じゃないわよ! でも無いってほどペッタンコじゃないじゃない!」

「Ah? 何怒って・・・。ああ、そういうことか。安心しろ。無いって言ったのは胸のことじゃねぇ」

「だったらどう・・」


いう意味よ。と問う声は喉の奥で消えた。痛いほど強く抱きしめてきたかと思えば政宗が吐息を零したからだ。その吐息は心の底からの安堵から出たものに感じたし、抱きしめてくる腕も微かに震えているような気がする。

弱々しい、って言葉が当て嵌まりそうなほど珍しい政宗の姿に、襟を乱され胸元を見られた羞恥と怒りなんか消えて不安だけが残った。


「政宗、どうしたの?」

「悪かった」

「え?」


思ってもいなかった返事に思わず政宗を見るけど、私の肩に額を押し当てるようにして顔を伏せているから表情は全く見えない。


「もう二度と、あんな目には合わせねぇ」

「あんな目? ねぇ、何の話なの?」


政宗の言っている意味が分からない。訝しげな表情を浮かべながら顔を上げた政宗が、「まさか・・」と呟いた。


「お前、覚えてねぇのか?」

「何を?」

「城下で・・・・いや、何でもねぇ。今言ったことは忘れろ」

「言いかけられると気になるんだけど」

「大したことじゃねぇよ」

「わっ」


グシャグシャと乱暴に頭を撫でられた。けど、それがごまかそうとしての行動だってことは分かった。政宗は何かを私に隠してる。そして私は何かを忘れてしまっているらしい。それも、政宗があんなに後悔と自責の念を感じるほどの、何か。

知りたいし、聞きたい。けど、政宗は話してくれないだろうことも分かる。どうしたら・・・。

無意識に政宗の袖を掴む。ちょうどその時だった。障子の向こうから政宗を呼ぶ小十郎さんの声がした。お館様が政宗と話したいことがあると言っているらしい。

それを聞くと政宗はさりげなく袖から私の指を離して小十郎さんを促して行ってしまった。逃げられた。そう感じた。



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