この蒼い空の下で

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「なんで!? なんで政宗が居るの!? 幻覚? 夢? まさか生き霊!?」

「Hey. 美夜」

「ぎゃっ」


お化け嫌い怖いと泣き叫ぶ美夜の頭を掴み強制的に視線を合わせる。一応笑っちゃいるがこめかみが引き攣っているのが分かる。美夜も気付いたらしく、ひっ、と小さく悲鳴を上げた。


「よぉく見ろ。俺は幻か? 夢か? 生き霊か?」

「げ、現実、です」

「だよなぁ? 現実なんだから驚く必要はねぇだろ? つーかよ、テメェは男なら誰にでもしがみついて大泣きすんのか? あぁ?」

「し、しないよ! そんなことするわけないじゃん!」

「だったらさっきのどういう意味なんだよ。誰にでもしないならなんでしがみついて大泣きした」

「に、匂いが」

「匂い?」


予想外の答えに手の力が緩む。その隙に美夜は部屋の端まで逃げた。


「政宗、煙管吸うでしょ? その匂いがしたの!」

「つーことは煙管吸ってる男なら誰でも良いってことか?」

「政宗以外の男の人が吸ってても臭いだけだもん! 私本来ならああいう臭い嫌いだし!」


美夜との距離を縮めていた足が止まった。

俺に対してだけ臭いと感じない?


「それに、腕、が」

「腕?」

「安心、するの。政宗の、腕の中だけ」


言いながら恥ずかしくなってきたのか美夜の顔が赤くなっていく。美夜は隠し事が下手だ。するだけ無駄だと思うほどに思っていることが全て顔に現れる。

だから分かる。美夜は嘘を言っていない。俺の怒りを鎮めるために俺が喜びそうなことを羅列しただけじゃないってことだ。

そもそもそんな器用なことが出来る奴じゃねぇが。


「つまり、俺の腕と匂いだったからしがみついて泣いたってことなんだな?」

「わざわざ言わないでよ! 全部無意識だったから私だって恥ずかしいんだから!」


こいつ、自分が何言ったか分かってねぇな。無意識に俺を感じて泣いた、なんてンな嬉しいこと言われて我慢出来るか。


「美夜」

「な、なによ」

「こっちに来い」

「なんで?」

「良いから来い」


不思議そうにしながらも近付いてきた美夜の腕を掴んで引き寄せ強く抱きしめる。硬直した体や、髪から覗く赤い耳にまで愛しさを感じる。


「ね、ねぇ!」

「なんだ」

「ほんとに、政宗なんだよね?」

「今度はそっくりな偽者だとでも言うつもりか?」

「だって、お館様が政宗とは敵だから、会うのは、無理、て・・・っ」


言いながらその時のことを思い出したのか、美夜の声が湿り気を帯び、手は先程のように俺の衣を掴んできた。


「なんで、政宗、居るの? も、二度と、会えない、て、我慢・・」

「迎えに来たんだよ」

「むか、え?」

「ああ。美夜、俺はお前を奥州に連れ帰るために迎えに来たんだ」

「なん、で? だ、て、ここ、敵国、でしょ?」

「関係ねぇよ。お前を手に入れるためならどこへだって行ってやる」


その前にもう二度と手放すつもりはないがな。

言葉にする変わりに腕に力を込めた。美夜は苦しいと訴えながらも手は俺の衣を掴んでいた。

そんな些細なことにすら幸せを感じる。

それに、どうやら愛しいという感情に果てはないらしい。



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