この蒼い空の下で

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お館様が足を止めた。さっき見た庭にあった池よりも小さな池がある。鯉が数匹泳いでいる。池を見て少しした頃、視線は池に向けたままお館様が話し掛けてきた。


「先程佐助が言うておった。おぬしはこことは違う世界から来たのではないか、とな」

「え・・・」


どうして佐助は分かったの? 携帯とか手帳とか、世界を越えた時に持ってきたものはお守り以外全て政宗のお城にあるのに。


「佐助は、なんで・・・」

「おぬしとの会話や、これまで調べてきた情報からそう思ったそうじゃ。まあ言うた本人も半信半疑といった様子だったがのぉ」


確かに佐助の前では何度もうっかり発言を繰り返している。でも、それとお館様が待つことにしたこととどう繋がるの?

お館様が私を見た。


「儂はな、佐助の話を聞いた時、疑うよりも先に納得した。なぜか分かるか?」


首を横に振る。


「昨夜聞きたいことがあると言った時、そして今朝おぬしに会った時。何れもおぬしは同じ表情を浮かべておった」

「どんな、表情だったんですか?」

「怯えと不安、それと期待、じゃ」


思わず自分の頬を触る。そんな私の頭にお館様の大きな手が置かれた。


「儂らならば話しても奇異な目で見たり、頭の病ではないかなどと疑わないのではないか。だがもしそうではなかったら・・・。行く宛も頼れる者も遠いこの地で見捨てられたら・・・。そう思ったのであろう」


こく、と頷いた拍子に涙が頬を転がり落ちた。お館様が太く無骨な指で優しく拭ってくれた。


「おぬしの立場ならそう思うても仕方ない。むしろ、会って間もない儂らに期待を抱いてくれたことの方が喜ばしいことじゃ。それは僅かだろうと信を寄せてくれておるということじゃからの。故に儂は待つことにしたのじゃ。おぬしが今よりも深く信じてくれるのをな」

「お館、様・・っ」


全てを温かく優しく包み込んでくれるような声だった。どうしてもっと早く話さなかったんだろう。どうしてもしかしたらなんて思ったんだろう。お館様はこんなに優しいのに。

ぼろぼろと泣き出した私をお館様は抱きしめてぽんぽんと背中を撫でてくれた。本当のおじいちゃんみたいに感じて、故郷のじいちゃんを思い出した。懐かしさに更に泣いて、でも感情の異変はやっぱり起きて。

恐怖とか安堵とか不安とか、いろんな感情でぐちゃぐちゃになったまま泣き続けた。

ひとしきり泣いて、泣いたおかげでだいぶ気持ちも落ち着いて、私はお館様にお願いして幸村と佐助を呼んでもらった。そして改めて私が異世界から来たことを話した。

少し怖かったけど、お館様達ならと勇気を出して感情のことや一晩で怪我が治ってしまうことも話した。

話し終えるとお館様はよう話してくれたなと言ってくれた。そして政宗に変わって今度はこちらが元の世界に帰る方法を探そうと言ってくれた。

無条件に与えられる優しさが嬉しくて私はまた泣いちゃって、そんなに泣いては目が溶けてしまうぞとお館様に言われてしまった。でもやっぱりその声は優しかった。

いきなり異世界に来ちゃった時は政宗に、同じ世界の中で遠い地へ飛んじゃった時は幸村やお館様、あと一応佐助に会えて良かった。

私の常識が通じない戦国の世で不自由も苦労も無く過ごせてきたのはみんなの優しさのおかげなんだと改めて思った。



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