この蒼い空の下で

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「失せろ」

「い、ま・・・今、なんと・・・」

「失せろっつったんだ。テメェを見てるのは不愉快だ。二度と俺の前に現れるな」


同じ空間にいることすら不快だった。もはやこいつが退室するのを待つ僅かな時間すら待てないほどに。

舌打ちをして立ち上がる。その刹那、耐え切れなくなったのか女が顔を上げた。その顔は恥辱にどす黒く染まり、醜く歪んでいた。


「それほどにあの女が良いのですか!? あのような身の程知らずの下賎の女よりも、わたくしの方が政宗様に相応しいではありませんか!」

「テメェが俺に相応しいだと? どこからそんな言葉が出てくる」

「全てですわ。文武両道に秀で、富にも権力にも恵まれた政宗様には知性、教養、美貌、全てに恵まれたこのわたくしが相応しいのは当然のこと! ふりとはいえ許婚の立場を任されたことだけでも分不相応なのに、身の程知らずにも政宗様に恋をしたあの女など塵芥と同じではありませんか!」

「な、に?」


美夜が、俺に、何だと?


「あんな女、死んで当ぜ・・っ」

「絢姫様!」


気付けば女の細い首を掴んでいた。最早我慢も限界だった。美夜を蔑んだのみならず、死んで当然だと?


「死んで当然なのはテメェだろう」

「ぁ、ぐ・・」

「お願い致します! お願い致します! 絢姫様をお許しくださいませ! このままでは絢姫様が死んでしまいます!」

「Ha! 良いじゃねぇか。こいつが死ぬことにどんな問題がある」

「そんなっ!」


縋り付く侍女を無視しさらに手に力を込めようとするが、横から腕を掴まれた。


「政宗様、そこまでになさいませ。それ以上力を込めれば本当に死にます」


小十郎を見る。俺の腕を掴む手には力が篭っている。


「なんで止める。潰せと言ったのはお前だろう」

「先にここで絢姫を始末すれば、要らぬ争いを招くことになるかと」

「・・・・・・チッ」


振り払うように首を離す。ほとんど意識を飛ばしている女の体が音を立てて床に倒れるのを見ることなく足速にその場から離れた。

脳裏を過ぎったのは戦に出ると伝えた時の美夜の怯えた顔。

何れはあの女も父親も、一族郎党全てを片付ける。美夜のことが無くとも前々から考えにあったことだ。あの女の父親は野心が強すぎるからだ。

放っておけば天下取りに乗り出した時に背後を突かれる恐れがある。いや、このままのさばらせておけば確実にそうなるだろう。だが、だからと言って事を大きくせずとも片付けることは出来る。

美夜が怯えない方法で片付けることは可能なのだ。


「shit!」


不愉快なあの女の命を長らえさせたのが、記憶の中とはいえ美夜だったことに無性に苛立った。



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