この蒼い空の下で

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「姉上!?」


姿を見せたわたくしに、末の弟が驚きの声を上げる。今宵の計画は誰にも知られていないと思っていたのだろう。同じ屋敷に住んでいるのだから、計画はどこからか漏れてしまう。それなりの人数の無頼の輩を雇えば尚更のこと。

頭は良いはずなのに、本当にどこかが抜けている。でも、わたくしが政宗様に輿入れするために頑張ってくれる可愛い弟。


「帰りますよ。あの女ならわたくしが始末したわ」

「姉上が、ですか?」

「ええ、そうよ。存在そのものが不愉快だったもの」


分不相応な感情を抱くなんて。人にはどんなことにでも相応しいものというものがある。家柄、教養、美貌と全てに恵まれたこのわたくしの夫に相応しいのが、文武、容姿、権力とあらゆることに秀でた政宗様しか居ないように。


「美夜様に・・・美夜様に何をした!」


全身に傷を作りながらも、まだ倒れることなく男達の相手をしていたくのいちを見る。政宗様が使役する忍だろう。ならばいつかはわたくしが使役することになる。

けれど、あのような下賎の女に肩入れするような者は要らない。それにあの忍も分不相応。このわたくしを睨むなんて。立場というものを知らないいい証拠だわ。


「お前達、その女を殺しなさい。お金なら幾らでも上げるわ」


眼の色を変えた無頼者達が一斉にくのいちに向かっていく。あの怪我なら、いくら大した腕を持たない無頼者相手でもそう長くは持ちこたえられないだろう。


「さあ、わたくし達は帰りましょう。お父様にこのことをご報告しなければ」

「はい、姉上」


弟を引き連れ屋敷への道を辿る。気分が良い。

お気に入りの着物が下賎の血で汚れてしまったのは不愉快だけれど、でも着物一枚どうということはない。もう邪魔な存在は居ないのだから。それに政宗様に嫁げば今よりずっと豪奢な着物をいくらでも仕立てられる。

これで政宗様もお戯れを終いにしてくださるはず。そしてご自分に相応しい女が誰なのかに気付いてくださるでしょう。


「年明けには政宗様の元に嫁げるかしら」


ああ本当に、気分が良い。

冴え冴えと昇った月が、まるでわたくしの幸いを祝福しているよう。


―――――


平野を挟んで向かい合う明かりがある。規模はこちらよりやや少ないくらいか。明日には衝突するだろう。不安は無い。小十郎や成実、そして兵一人一人に至るまで信を置いているからだ。

小十郎の考えた策が嵌まれば夕刻までには片が付くだろう。勝ったと知らせればあいつも安心する・・・・。


「っ!」


ぐらりと視界が揺らいだ。こんな時に何だってんだ。軽く頭を振り、木に着いて支えていた体を起こす。その僅かな間に辺りは一変していた。

上下左右、どこもかしこも白、というより乳白色に染まっていた。なぜか美夜が持っていたお守りだとかいうあの不可思議な石を思い出した。

そんな空間に、俺と対峙するように一つの影がある。体つきから女だろうと判断出来るが、衣服の形が美夜がこちらの世界に来た時に来ていた物に似ている。

それ以外は分からない。女の後ろから光が当たっているかのように影になって表情すら見分けることが出来ない。


「何者だ。あんたが俺をこんな妙な場所に連れて来たのか」

「貴方を試させてもらうわ。任せられる男かどうか」

「なんだと? どういうこと・・・っ」


詰め寄ろうとした途端、再びの目眩。目を開けた時には妙な空間から元の場所に戻って来ていた。

目眩に襲われた時の不快感が、今起きたことが現実だと伝えてくる。月の位置は変わっていない。つかの間の出来事。

俺を試すだと? 誰を任せる気だ? そしてあの女はいったい・・・。



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