この蒼い空の下で
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城内に与えられた自室に戻る。先程見た美夜さんの決意に満ちた強い眼差しが脳裏を離れない。
まさか理解したいと言い出すとは。予想だにしなかった。
彼女の心が傷付くだろうと分かっていても、あえて現実をわざと厳しい言葉を選んで話した。
その目的はただ一つ。彼女の方から殿と距離を置くよう仕向けるためだ。
それに、もしこれで彼女がこちらの思惑通りの状態になればすっぱりと彼女を諦めることが出来る。あれくらいで逃げ出すような弱い精神の持ち主では、たとえ成実が言っていたような方法で無理矢理にこの世界に留めたとしても、この戦国の世の現実を知るうちにいずれ心が壊れてしまうだろう。
逆を言えば、逃げ出さずに理解したいと強さを見せた美夜さんは、ますます殿の隣にと望みたくなる女性だということでもある。
いっそのこと殿を説得して彼女を帰さないようにしてしまおうか。誘惑に駆られるが、直ぐに理性が否と告げる。
世界を越えた方法が解らないままでは、いつか何の前触れもなく帰ってしまう可能性を捨て切れない。成実の言を実行に移すには、最低限彼女が世界を越えた方法が判明している必要がある。
まだ手掛かりとなる情報は全く無い。だが、今後も見つからないとは限らない。今まで以上に彼女は手放すには惜しい女性となった以上、考えを改める必要があるのかもしれない。
「しばらくは様子見、としますか」
小十郎と成実にも知らせておいた方がいいだろう。反対していた成実は様子見だというのを無視しそうだが今は従軍の身。戻ってきてから気をつければいい。
「綱元様」
その時、外から声を掛けられた。入るよう促すと、楓が入ってきた。侍女のお仕着せを着てはいるが、美夜さんの身に起こる異変を間者や事情を知らぬ侍女らに知られぬように、美夜さんに付けられた忍だ。女なのは同性の方が何かと都合が良いためだ。
美夜さんが城を抜け出した時も密かに護衛をしていた。そして先回りをして戻ってきた楓から美夜さんに接触した男が居たとの報告を聞き、その男の氏素性を調べさせていたのだ。
「報告を」
「は。男の名は太一。小物の歩き売りをして生計を立てているようです。今のところ不審な点は見当たりません」
「ご苦労でした。念のためもう少し詳しく調べ、しばらく見張りも付けるように」
命令に一礼で返すと楓は下がった。
内容までは聞き取れなかったようだが、太一という男と会話を交わした後から美夜さんの様子が変わったという。となれば美夜さんの性格を考えればお礼をしたいと近いうちに城下へ行こうとするはず。
ただの町民か、他国の間者が変装した者か。気の良いだけの町民ならばいいがもし間者だとすれば、接触が偶然とは考えにくい。城下へ行く際は美夜さんの護衛を増やしておいた方がいいだろう。
続