この蒼い空の下で

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「美夜様? 如何なされたのですか? お顔の色が・・」

「・・大丈夫です・・・。少し、一人にしてください・・・」


ぼぅっと立っていたら声を掛けられた。でも、今は誰とも話したくなかったから一方的に話を打ち切って、心配する侍女さんに背を向けた。

自分の部屋までの道順なんて分からないから適当に歩く。頭の中では聞かされたばかりの話が延々と繰り返されている。


『戦がどのようなものか知っているか、最初に聞きましたね。そしてあなたの答えを聞いて、私はやはり、と思いました。あなたは物事を甘く、楽観的に考え過ぎている』


軽蔑、とまではいかないまでも、それに近い感情が私に向けられていた。多少なりとも好意を持ってもらえてると思っていた分ショックだった。


『戦とは、一言で言えば殺し合いです。どんな大義名分を掲げようと、その本質は変わりません。ではなぜそのようなことをすると思いますか?』


見覚えのある場所に来たことに気付く。左側へ行けば自分の部屋、右側へ行けば政宗の部屋がある。何も考えることなく、無意識に足は右側を選んでいた。


『目指すものがあるからです。好き好んで人を殺しているわけではもちろんありません。殺さずに済むならそれに越したことはありません。ですが、そんな甘ったれた考えで生き残れるほど、この世は優しくも甘くもないんです。殺らなければこちらが死ぬんです』


部屋の戸を開ける。誰も居ないことなんか分かりきったことなのに、しんと静かな室内を見たら無性に寂しくなった。


『殿は天下を目指しておられます。殿はそれを叶えるために、私達は殿が作り出す世をこの眼で見たいがために、立ちはだかるものは排除します。何人、何百、何千の屍を築き、血の川を作ることになろうとも、譲れない願いがある以上は立ち止まりはしません』


戸を閉めて政宗がよく座っている辺りに行ってパタリと倒れ込む。煙管の匂いがした気がした。

政宗の、匂い。

抱きしめられたまま眠ってしまった時のことを思い出した。その腕の温かさと心地好さも。目の奥が熱い。


『この世界は、貴女が居た世界とは全く違うのですよ』


「ふ、ぅ・・・」


拒絶された。そう思った。そう感じる言い方と視線だった。

私と政宗達とは違うのだと。

今はたまたま一緒に居るだけに過ぎない。違う世界の人間同士が馴れ合うことなんか出来るわけがない。私達の間には、決して消せない壁があることを忘れるな、と。

涙が止まらない。胸の奥が痛くて辛くて、苦しかった。



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