この蒼い空の下で

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「大丈夫ですか?」

「お前、まさかあれだけの量で酔ったのか?」


顎を掴んで上向かせれば視線が揺れて定まってない。目元が朱色に色づいて、どこからどう見ても酔っ人間のそれだ。


「美夜さんは酒に弱かったようですね」

「つーかこれは弱すぎじゃね? たった一杯だぜ?」

「弱い者には量など関係無いだろう」

「まあそうだけどさぁ。でもたった一杯で酔う奴なんてマジでいるんだな」


自分のことを言われていても酔っているから分からないようで、美夜はぼんやりとしたままなんの反応も無い。普段が騒がしいだけに大人しい美夜というのも珍しい。が、酔ったというのに大人しくなっただけ。


「酔っても少しの色気も出ねえとはな。さすがに同情したくなる」

「無いなら作ればいいのでは?」

「こいつにンなことするだけ無駄だろ」

「やってみなければ分かりませんよ」

「綱元、ほどほどにしておけよ」

「相変わらず小十郎は頭が堅いですね。人生時には楽しまないと損ですよ」


渋い顔をする小十郎を尻目に綱元は美夜の襟と裾を下品にならない程度に乱し姿勢を指示していく。されるがまま言われるがままの美夜の様子は普段とは真逆だ。何の反応もねえってのもつまらない。多少は騒いでくれた方が面白いなと思いながら綱元が作り上げていくのを待つ。


「こんなものでしょう。いかがですか?」

「うっわぁ。女って怖ぇー」

「ほぉ、ここまで変わるとはな」

「殿はどうです?」

「なかなか良いじゃねえか」

「お褒めに与り光栄です」


崩した襟から肩と胸元が覗き、一つだけ燈してある明かりが白い肌に当たってどことなく艶めかしい。襟を崩したために下がった袖から指先だけを覗かせた手は裾を乱して開いた足の間に置かれている。その体勢と、体が小柄な分必ず上目遣いになる目は酔っているせいで潤んでいる。胸元の寂しさが多少気になるがそこはどうにもならない部分だから仕方がない。


「美夜さん。先程お教えしたことを殿に」

「……ん」


酔いのせいで反応は鈍いが綱元に頷き返した美夜はこちらへとにじり寄ってきて俺の膝に手を置き見上げてきた。いったいあの騒がしい美夜のどこから出たのかと思うほどに今の美夜には息を飲むほどの色香があった。胸元の寂しさが気にならなくなってくる。


「政宗様。美夜を可愛がってくださいませ」


囁きに近いほどの声音。ジッと見上げてくる美夜の頭に手を置いて、短く息を吐いた。


「素面の時に聞けたら別だったかもしれねえな」

「おや、気に入りませんでしたか?」

「酒が抜けた時に記憶が残ってりゃ別だな」

「そればかりはその時にならないと分かりませんね」

「勿体ねえ! それ据え膳だよ!? 据え膳! 食わなきゃ損じゃん! 梵が食わないなら俺がごふぉっ!!」

「ちったぁ節操ってモンを身につけろ!」

「そんなだから成実はモテないんですよ」

「だからって両側から同時に殴ることねえだろ!? しかも綱元は手じゃなくて銚子で殴ったし!」

「手で殴ったら痛いですしこちらの方が硬いじゃないですか」

「硬いから避けてよ! あえてそれで殴るなよ!」


ギャーギャー騒ぐ成実から美夜に視線を戻す。相変わらず潤ん眼でぼんやりとこっちを見上げていた。


「そんなに食われてえのか?」

「ん……?」


意味がわからないのか首を傾げた。その様は先程までの色香が錯覚だったのかと思うほどにあどけない。変な女だとやや乱暴に髪を撫でたその時、唐突に美夜の体が力を失い倒れ込んできた。

きたか。成実が騒ぐのを止めた。仰向けにさせた美夜を全員が見つめる中、昨夜と同じことが起きた。ほんの一瞬体が透け、気配が消える。誰かが息を飲む音がした。


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