この蒼い空の下で
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「随分と可愛いことしてくれるじゃねえか」
顎を押さえていた手を離し、ゆらりと顔を上げて私を見下ろしてきた政宗が浮かべていた笑顔の怖さに顔が引きつる。
「あ、あはは。顎が赤くなっちゃってるね」
「誰のせいだろうなぁ?」
「え、えーと、誰だろう? あ! はい、手ぬぐい。早く拭かないと風邪引いちゃうよ!」
「話をごまかすんじゃ、」
ちょ、なに? なんでそんな面白いこと考えついた悪魔みたいな笑顔浮かべるわけ!? 早めに謝っとけば良かった! 今からでも遅くない? 遅くないよね!? 間に合うよね!?
「ごめんましゃあっ! 耳に息吹き掛けるなって何度言えば分か、る……」
う、うわ、なにこれ。結構近い距離で真正面から見ちゃった政宗は魅入るって表現がぴったりなくらい妖艶な笑みを浮かべてた。滴る水がその妖艶さを引き立てちゃってる。視線を下に逸らしても政宗は上着を脱いだままだから程好く鍛えられた均整の取れた体が眼に入って、その体を伝う雫にも変にドキドキしちゃってさらに動揺する。男なのにこんなに色気も艶っぽさもあるなんてどういうこと!? てか、か、顔が熱い。
「ま、政宗?」
「温めてくれよ」
「え?」
「お前の体温を分けてくれ」
「わ、わっ」
体重を掛けられて後ろに倒れる。でも政宗の手が頭を支えてくれたから痛みはない。ないんだけど、お、押し倒されちゃったんだけど!
こんな体勢じゃさっきのセリフがエロい方の意味に聞こえちゃうじゃない! 体勢関係無くアッチの意味に聞こえちゃう言い方だったけどさ!
「美夜」
「ひゃっ」
立っていたら腰砕けになっちゃっていたかもと思うほどに色気のある、普段よりも低めの声で囁くように名前を呼ばれたと思ったら首筋に顔を埋められそこを舐められた。政宗の手が着物の合わせに入ってくる。政宗の胸を押して離れようとしても手のひらに触れる濡れた肌の感触や体温にどぎまぎしてしまって慌てて手を離せばふっと政宗が笑ってさらに体を近付けてきた。私は着物を着てるのに政宗の体温が全身に伝わってくるような錯覚に陥る。
ど、どうしよう。このままじゃホントにヤられちゃいそうなんだけど! あ、そうだ! 成実さんか侍女さんに助けてもらお、って手を振りながら去ってかないでぇっ!!
首筋を滑る唇の感触のくすぐったさと恥ずかしさに泣きそうになりながら二人を探して助けを求めようとしたのに侍女さんは静かに一礼して、成実さんは笑顔で手を振ってどっかに行ってしまった。侍女さんは女性だし立場上仕方ないとしても成実さんは別でしょ!? 男だし主を諫めるのも部下の役目じゃないの!? なのに笑顔で去るなんて成実さんの馬鹿! 後で覚えてなさいよ!
「どこを見てる」
「んっ」
首筋にピリッと小さな痛み。膝が割られ、その間に政宗の足が割り込んできた。捲れてしまった裾の間から入ってきた政宗の手の平が膝から上へと上ってくる。抵抗しようとした手は片手で簡単に頭上に纏められてしまう。心臓の音が煩くて息がうまくできなくて、開いた口からは掠れた声しか出てくれない。政宗の手が足の付け根近くまで上ってきた――。
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