この蒼い空の下で 弐

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――――――

じーっと注がれる視線が痛い。さっきまでの混乱も羞恥も今はどこにも無くて、ただただ決まり悪くて居心地も悪い。

着替えをして熱いお茶に口を付けながらもどうにか政宗の視線から逃れられないかなと本気で思う。

雪に埋まってる私を最初に発見したのは侍女さんだったらしい。その侍女さんが慌てて政宗を呼んでくれたおかげで助けられたのだけど、駆け付けてみればなぜか頭から埋まっているし助けられた直後にも落ちるしで自分でも呆れられる要素しか無いと思う。


「はぁ」

「っ!」


聞こえたため息にビクッとなる。無駄と分かっていても政宗の視線から逃れよう顔を背ける。


「今さらお前の奇行にとやかく言う気は無ぇ」

「奇行!?」

「奇行だろ」

「奇行じゃないよ! ちょっと顔を冷やそうとしただけだもん!」

「それでなんで頭から雪に突っ込むことになる。雪で冷やすにしても手に持てば済むだろ」

「う……」


正論で、何も言い返せず、視線を逸らしたらまたため息をはかれた。居た堪れない。


「美夜」

「はい……」

「お前の体はもう一晩で不調が治るわけじゃねぇんだ。頭を打てば下手すりゃ死ぬこともあるし体を冷やせば風邪で済まねぇこともある。これからはもっと体を大切にしろ」

「……ごめん、なさい」


謝ったことでようやく政宗の溜飲は下がったらしく、小さく息を吐くとちゃんと守れよと言ってこの話を終わらせてくれた。やっと居た堪れない視線と空気が消える。ホッとしながら濡れた髪を触って乾き具合を見ていたら、政宗が「ん?」と声を上げ私へと手を伸ばしてきた。


「額を打ったのか?」

「え……」


自然な動作で前髪を掻き上げられ覗き込まれた。間近にある政宗の顔に、まだ夢か現実か分からない記憶とが重なり――。


「〜〜っ、……美夜、てめぇ俺に何の恨みがある」


思わず頭突きしてしまった。政宗は心配してくれただけなのに頭突きした私が悪いと分かっていても、額を抑えながら睨んでくる政宗にどうして頭突きしちゃっかなんて話せない。話せるわけが無い。だって理由を言うってことはあの言葉やその後のあれが夢だったのかそれとも現実のことだったのかを聞くってことでもあるんだもん! そんなの聞けるか!!


「う、恨みなんて無いよ! ただ、その、あの、えぇと、あっ、そうだ! 私なんか冷やすもの持ってくるね!」


そそくさと立ち上がろうとしたところで強い力で手首を掴まれてしまった。じっと眼を覗き込まれる。さっきまであったはずの怒りは消えているけれど、探るような視線に思わず視線をさ迷わせたら政宗の雰囲気がふっと変わった。

私を見る眼も甘くて熱い何かを秘めたものに変わったせいでまた動悸が激しくなり顔も熱くなってきてしまう。気を付けないと政宗の唇を見てしまいそうにもなって、慌ててぎゅっと眼を閉じたら政宗が微かに笑う気配がした。


「ちゃんと覚えてたみたいだな」

「な、なにを?」

「愛してる」

「ひゃぐっ」


甘い響きを伴う声に変な声が出てしまった。それにも政宗は微かに笑うと、掴んだままの私の手首を軽く引くと腰にも腕を回してきた。


「俺が唯一愛する女として、この城に住め」


吐息が掛かるほどの近さで、囁くように言われたかと思ったらかさついた熱いものにそっと唇を塞がれていた。


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