この蒼い空の下で 弐

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「おっとそうだ俺用事がぐえっ、ぎゃっ!」


そそくさと出ていこうとする成実の襟具を掴み後ろに投げ飛ばしてから外に向かって入れと許可を出した。

緊張した面持ちで入って来たのは三人の兵だった。美夜が居た世界ではりーぜんとと言うらしいHairstyleの兵が他の二人よりも一歩前に座ったことからこいつがLeader格なんだろう。


「俺に話ってのはなんだ」

「その前に俺ちょっと厠に、は後で行こうかな!」


諦め悪くまた出ていこうとした成実に視線を向け、大人しく座ったのを確認してから兵へと視線を戻し促した。


「筆頭、お願いがありやす」

「なんだ」

「どうか、どうか姫さんを労ってあげてくだせぇっ」


ゴッ! と床に額を打つ音が聞こえたほど三人は一斉に勢いよく頭を下げた。そこまで必死な様子と言葉の意味を捉え損ねたこともあり反応が遅れる。それを三人はどう勘違いしたのか、頭を下げたままさらに切々と訴えてきた。


「姫さんは人の立ち入らない山奥に咲く真っ白な花みたいな方なんです! 汚れを知らない純粋無垢にして可憐な麗しの姫君なんです」

「筆頭と姫さんが愛し合ってることは分かってるっす! でも純粋無垢な姫さんには筆頭の情欲に満ちた愛情は速すぎるっす!」

「姫さんが倒れられたのは筆頭の情欲に中たっちまったからだと思うんす。だからお願いしやす! 純粋無垢にして可憐な俺らの麗しの姫さんをもっと労ってくだせぇ!」

「ぐぶふっ!」


三人は再び床に当たるほど勢いよく頭を下げた。しばらく三人の後頭部を見詰め、それから背後へと視線を向けた。腹と口を押さえた成実が体を丸め必死に笑いを堪えようとしているが堪えきれずに全身を震わせていた。

ようやく、声を掛けてきた時の成実の様子の意味が分かった。とりあえず、こいつへの処罰は後回しだ。一瞬合った視線に成実の顔から一気に笑いと血の気が引いたことなど無視して視線を前へと戻した。まだ三人とも深く頭を下げたまま上げる素振りを見せない。


「まずは頭を上げろ」

「聞き届けてくれるんすか!?」

「聞く気は無い」

「筆頭……」

「話は最後まで聞け」


揃って悲愴感を漂わせた三人に心なしか頭痛を感じた。こいつらには悪いが美夜にも同情しそうになってしまう。


「お前等、俺と美夜の関係を言ってみろ」

「筆頭と姫さんの関係っすか?」


何で今さらといった様子で困惑しながらも、「ご婚約中の間柄っす」と答えたりーぜんと兵に他の二人も頷く。


「分かってんならなんでさっきみたいな考えになる。お前等が俺に頼みたいのは美夜に性的なことをしないでくれってことだろ」

「へい」

「お前等も言ったように俺と美夜は婚約してる。つまりいずれは式を挙げて夫婦になるってことだ。そうなれば当然俺は美夜を抱く。それとも、お前等は式を挙げることなく一生婚約状態で居ろとでも言うつもりか?」

「そんなこと思って無いっす! 筆頭と姫さんには一日も早く夫婦になって欲しいと思ってるっす!」

「だったら尚更だろ。夫婦になった後も俺が美夜に手を出さずにいれば周りは俺と美夜の仲の良さは見せ掛けなんじゃねぇのか、もしくは美夜は子が産めない体なんじゃねぇかと勘繰る。そうなった時辛い目に合うのは美夜なんだぞ」


子が産めない、出来ない女は敬遠される。婚姻後に分かれば子の産めない女だと女を攻めるだけでなくそれを理由に離縁することも珍しく無い。俺の立場を考えれば俺の意思がどうあろうと周りは側室をと求めてくるはずだ。そして美夜にも子を産めないなら自分の方から俺に側室を進めるべきだ、それが正室の勤めだと攻めるだろう。

俺に言われたことでようやくそのことに気付いたらしく、三人はハッと眼を見開くと今度は謝罪を口にし、またもゴッ! と音がするほど勢いをつけて頭を下げた。


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