この蒼い空の下で 弐

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「政宗からはどこまで聞いたの?」

「美夜が、その、こことは別の世界から来たってことを聞いたよ」

「それ聞いて、慶次はどう思った?」

「正直最初は身分のことを言ってるんだと思ったよ。でも独眼竜から俺達が居るこの場所とは全く違う、言葉通り異世界から来たんだって言われて・・」

「信じられなかった?」

「・・ごめん」

「謝らなくていいよ。私だって慶次の立場だったら嘘か、頭がどうかしてるって思うもん。でも、ね。ほんとの、ことなの」


最初は明るく朗らかだった美夜の声が最後だけ不安に震えた。俺を見る眼も不安に揺れている。だから分かった。美夜が言っている通り、全部事実なんだって。


「分かった。信じるよ。俺も、夢吉も。な、夢吉?」

「ウキッ!」

「慶次、夢吉・・。ありがとう」


顔を綻ばせた美夜の眼は潤んでいて、もっと早く信じると言えば良かったと後悔した。だって俺は知ってたんだ。美夜は純粋で素直で優しい良い子だってことを、綺麗な澄んだ瞳の持ち主だってことを。こんな子が質の悪い偽りを口にするわけ無いんだから。

だけど、同時にどうしたら良いのか分からなくなった。独眼竜に話を聞く前は独眼竜と美夜の一日も早い祝言の実現のために力になりたいとしか思っていなかった。

でも美夜はこの世界の人じゃない。いつかは元の世界に帰ってしまう。これじゃあ祝言を挙げたってずっと一緒には居られない。それでも祝言を挙げて夫婦になったとしても、別れが来た時にもし二人の子供が居たらと考えたら当事者じゃない俺まで辛い気持ちになった。

未来に別れが決定付けられているなんて。あんなに深く相手を想っている二人なのになんでこんなに悲しい事実があるんだろう。愛し合うもの同士が一緒になっても幸せになれないなんてあんまりだ。なのになんで独眼竜は美夜との婚約を本物にしたんだろう。

そこまで考えて、ん? と違和感を感じた。独眼竜は美夜のことをとても大事に大切に思っている。それは間違いない。そんな独眼竜が悲しい結末になると知っていながら婚約を本物にするなんてどう考えても変だ。一時の、終わりのある幸福で満足する男にも見えない。なのに婚約を本当にするなんて、それこそ本当にしても悲しい結末にならない確証でも無ければ・・・・。


「もしかして、何か確証があるのか?」

「慶次?」


夢吉と戯れていた美夜に不思議そうに見詰められて、慌てて何でもないとごまかした。まだ俺が聞いていない、そして美夜も知らない話があるのかもしれない。美夜に話していないのは話せない理由があるんだろう。たぶん俺なら聞いても大丈夫なはず。後でまた独眼竜に聞きに行こう。


「慶次、慶次」

「あ、ごめんよ。なんだい?」


意識を美夜に戻すと美夜が夢吉を乗せた手を俺の方へと伸ばした。


「あのね、夢吉が私に何か伝えたいみたいなの」

「キッ! ウキッ!」

「うん・・うん・・分かったよ、夢吉。美夜、夢吉は美夜が寂しくないか心配してるみたいだ。こっちに来て結構経つんだろ? 家族とか友達とか、恋しくならないかい?」


手振り身ぶりを交えて伝えられた夢吉の言葉を美夜に伝えると、なぜか美夜は怯える様子を覗かせた。それを押し隠すように笑って、口を開いて、たぶん大丈夫って言おうとしたんだと思う。だけど実際に美夜の口から零れた言葉は困惑に満ちたものだった。


「え・・・なんで・・・」

「美夜?」

「あ・・・だ、大丈夫! 何でも無いの。そうだよ、何でも無い。普通に戻っただけなんだから、大丈夫。でも、なんで、急に・・・」


考えるうちにより不安や戸惑いが深まってしまったみたいで、美夜の眼は不安と戸惑いと、そして怯えに揺れて落ち着きを無くした。ぽとりと夢吉を落としたことにも気付かない様子で右の手首を強く掴んでいることに気付いた。そこには確か綺麗な珍しい装飾品を付けていたはず。

すがるように掴んだことからその装飾品が誰から送られたものか分かった。今の美夜に必要な男、独眼竜だ。


「美夜、ちょっと待っててくれ」


夢吉に目配せで美夜を頼み、急いで独眼竜を探した。


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