この蒼い空の下で 弐

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「アイツ、普段から恋だ何だと言ってるだけあって気が利くな」

「だ、誰のこと?」

「俺とお前を二人きりにするような気を利かすやつは前田しか居ねぇだろ」

「・・慶次は、本当のこと知らないからだよ。知ってたら政宗と二人きりなんてそんな私の身が危ないことしないよ」


ドキドキしていた胸の辺りが急にモヤモヤズキズキしてきたけれど、それを表に出さないように気をつけながら言った。直後にこの台詞もヤバかったかもと思った時にはもう遅くて政宗に引き寄せられ膝の上に座らされてた。


「危険っつーのはこういうことか?」

「うひゃっ!」


ちゅっと首筋にキスされて、恥ずかしさとくすぐったさに首を竦めれば今度はこめかみにキスされた。首を竦めたままこめかみを手で抑え、体を丸めるとくつくつと楽しげに笑う声が上から落ちてきた。

反撃にお腹にパンチを入れてみたけど鍛え上げられた体は硬くて私程度のパンチじゃ効果は全く無し。ならばとどこか抓ってやろうとさ迷わせた手が政宗に掴まって、指を絡めながら握られた。

たったそれだけでもドキドキしたんだけど、佐助と話をしたばかりだからかふと政宗の手に意識が向いた。見えなくても、触れ合っているだけで手の平が硬いことが分かる。


「どうした?」


私の様子がいつもと違うからか、優しく聞かれた。少し迷って、躊躇って、でもいつまでも逃げてはいられないとなけなしの勇気をかき集めた。


「あの、政宗は、その・・・い、戦に出たら、人、を・・」


殺してるんだよね? 勇気をかき集めても最後の一言が言えなくて、俯いてしまった私の手を政宗が離した。たったそれだけのことが、政宗が私の手を離したという事実が、私と政宗の間にある認識だとか世界だとかの違いを突き付けられた気がした。

後悔とか情けなさとか、いろんな感情が襲ってきて苦しくて悲しくて泣きそうになる。まだ政宗の膝の上に居るのに、政宗が酷く遠い存在に感じてしまう。

でも、零れそうになる涙を堪える私の前に、離されたばかりの手が差し出された。どういう意味なのか分からなくて思わず政宗を見てしまう。


「美夜、俺が怖いか?」

「え?」

「俺はこれまでに何人もの命を奪ってきてる。これからだって奪い続ける。恐らくは目的を達成するその日までな」


常に無い、怖いほどに真剣な眼と口調で言われ、政宗の手を見つめた。指は長くて、手の平は硬い大きな手。この手に頭を撫でられたりと触れられるが結構好き。だけど、たくさんの人の命を奪い、奪い続ける多くの血に濡れた手でもある。


「平気、なの?」


答えが怖くて聞けなかったはずなのに、それが嘘のようにするりと口から零れて出ていた。


「人を殺すことが、か?」

「うん・・」

「そうだな・・・」


遠くを見る仕種をした政宗を、どうしても期待する眼で見てしまう。


「どちらでも無い、だな」


思ってもみなかった答えに、瞬きを繰り返しながら政宗を見てしまう。そんな私に見ながら政宗は理由を話してくれた。


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