この蒼い空の下で 弐
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鍛練場に戻ると成実さんも居て、慶次と手合わせしていた。だからか幸村や他の兵士さん達は二人に場所を譲り手合わせを観戦してた。私も縁の上からそれを見ていたんだけど(庭に下りたらみんなの頭が邪魔で見えない)、二人の持つ刀が太陽の光に反射して光るのが気になってしまう。
「本物だよ」
「わっ!」
隣からの突然の声にびっくりする。いつになったらマシな現れ方してくれるんだと睨もうとして、佐助がいつもの胡散臭い笑みでも意地悪そうな笑みでも無く真面目な顔をしてるのに気付いた。そうしてさっき佐助が言ったことを思い出した。
「ねぇ、本物、って言ったよね?」
「言ったよ。あの二人が使ってる獲物はどちらも本物、つまり真剣だ。当たれば当然、切れる」
「あっ」
佐助が言ったことを証明するかのようなタイミングで、横に飛んだ成実さんの頬に赤い筋が出来た。私の位置からでも少量の血が流れたのが分かる。それでも成実さんも慶次も、それには一切構わずどこか楽しそうに手合わせを続ける。
「怖くないのかな」
「怖がって怯えてたら戦場では命取りになる。だから真剣を人に向けること、人から向けられることに慣れるのも、生き残るためには必要なことなんだよ」
「・・・・・・・」
黙ってしまった私の頭を佐助が撫でた。相談に乗ってくれる時限定の、意地悪じゃない佐助。
「まだ、ね、答えが出ないの」
何の、とは言わなくても佐助には伝わるはずだ。あの場には幸村と佐助しか居なかったし、聞いてきたのは佐助なのだから。
「答えに辿り着くための手掛かり、ってわけじゃないけど、一つだけ教えてあげる」
顔を上げて佐助を見る。佐助は手合わせをする慶次達へと視線を向けていた。
「あの二人、楽しそうだろ?」
「うん」
私も手合わせ中の二人を見て頷いた。成実さんの方が少し押されているみたいだけど、さっきと変わらず慶次も成実さんも楽しそうに刀を振るっている。
「俺は忍だからちょっと違うけど、強い奴と戦うことが楽しいんだよ。人を傷付けたり、ましてや殺すことが楽しいわけじゃない。それを楽しむようになったら終わりだろうからね」
何が終わりなのか、はっきりとは言わなかったけど何となく分かった。きっと、『人』としての終わり。佐助はそう言いたいんだと思う。例え真剣でも強い人と戦うのは楽しい。でも人の命を奪うことを楽しんでは居ない。
じゃあ奪うことは怖くないの?
人を殺して、平気なの?
殺すことを楽しむようになったら人としての終わり。それは分かる。世界や時代が違っても命が尊いものであることに変わりはない。そんな命を楽しみのためだけに奪うなど人の道を外れた行いだ。
だけど、じゃあ一人や二人なら良いのか、楽しまなければ良いのかというとそういうわけじゃない。問題はそこじゃない。
命をどう思っているのか。
もし掛け替えの無い尊いものだと分かっているのだとしたら、それを奪うことをどう思っているの? どうして平然と毎日を暮らせているの?
何とも思っていないなんてことは無いはずだ。そうあってほしい。だってみんな、優しい心を持ってるんだもん。
気付けば思考は自分の希望が混ざったものになってしまっていた。いつもそう。どれだけ考えても私自身の希望や願望を切り離すことが出来ない。
多分、そうじゃなかった時のことを考えたく無いからだ。だから聞くことも出来ない。
私が知るみんなの姿が崩れて、今まで通りで居られなくなってしまったらと思うと、怖い。
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