この蒼い空の下で

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キスされた方の頬を手で押さえたままチラッと政宗を見る。ニヤニヤ笑ってるのを見たらムカつくだけだから、意識して頬だけ見るようにする。それでも表情も眼に入ってきちゃうけど!

あそこにちゅっとやるだけ。そうよ、たったそれだけのこと。こっちの世界に来る前はよくお隣のようくんにしてたことじゃない。ようくん生後七ヶ月の赤ちゃんだけど。

頑張れ私! 口にするわけじゃないんだから簡単なことじゃない。ようくんにするのと一緒よ、一緒!

よし、やるぞ!

気合いを入れてグッと拳を握って政宗の前に立つ。けど、政宗は背が高いからこのままじゃ届かない。


「す、するから屈んで」

「背伸びすりゃ届くだろ」

「と、届くかもしれないけどそれじゃ私がやりたくてするみたいじゃん!」

「似たようなもんだろ。夜まで待ちたいって言いだしたのはお前なんだからな」

「うぐっ」


そうだけど。そうだけど! 私が恥ずかしがり屋だって知ってるって言ったの政宗じゃない!

睨むけど状況は変わらない。政宗の言う通りお願いを言いだしたのは私だ。

胸に手を置いて、何度も深呼吸を繰り返す。心臓はバクバクしたままだけど心だけはほんの少し落ち着いた。と思う。

頑張れ私。さっきの決意を思い出せ!

これからすることへの緊張と恥ずかしさで指先が震えている手を、政宗の組んだ手に乗せそれを支えにして背伸びをした。だけど頬まではあとちょっと届かない。爪先立ちした足がぷるぷる震えてる。

こんなに頑張ってても政宗はニヤニヤ笑ってるだけで顔を傾けることすらしてくれない。こうなりゃ自棄だ! 女は度胸よ!

組んだ手に置いていた手を政宗の首に回して私の方に引き寄せ頬に唇を押し当てた。そして政宗が何か言い出さないうちにと直ぐに離れて逃げるように小十郎さん達の所に戻り、私に気付いて振り向いた小十郎さんに体当たりする勢いで抱き着いた。


「どうした。また政宗様に何かされたか」


苦笑混じりに聞かれた。こくっと頷くと「政宗様にも困ったものだ」と呟きながら頭を撫でられた。

政宗も戻って来たらしく足音が聞こえて、小十郎さんに抱き着いたまま背中側に移動した。


「政宗様、如何なさいますか?」

「どっかで時間を潰す。真田も俺がそう決めたなら異存は無ぇんだったな?」

「うむ」

「なら、決まりだ」


約束はちゃんと守ってくれるみたい。そうじゃなきゃ小十郎さんに訴えて叱ってもらうだけだけど。

どこで時間を潰すかと話し合いがなされて、小十郎さんの畑に行くことになった。様子を見に行きたいと小十郎さんが提案したからだ。


「美夜、来い」

「嫌! 小十郎さんに一緒に乗せてもらう!」

「あ゙ぁ?」


不機嫌丸出しの声に肩がビクッとなったけど、こればっかりは従えない。何を言われようと嫌なものは嫌。というか無理! 今政宗の近くに行ったら絶対に心臓止まる。

ぎゅー! っと強くしがみついたからか小十郎さんが政宗を説得してくれた。近くにも寄れないけど顔も見られないから小十郎さんに馬上に上げてもらってからも動き出してからもずっと政宗の方を向かないようにした。

明らかに政宗を避けてる私を幸村が心配そうにチラチラ見てきてたけど答える余裕なんて無いから幸村には悪いけど気付いていないふりをした。

畑に着くと小十郎さんは待ちきれないとばかりといそいそと世話をしに行った。佐助が「話には聞いてたけど本当に作ってるんだねー。しかもあの嬉しそうな顔」なんて言って驚いてた。私も小十郎さんの趣味が野菜作りって聞いた時は信じられなかったもんなー。

陽が暮れ始めた頃、畑を出てお城に向かった。城下街に着く頃にはかなり暗くなってて通りを行く人も疎らになってた。おかげで人目を気にすることなくお城に向かうことが出来た。


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