この蒼い空の下で

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「ありがとうございましたー」


お会計を済ませ、なぜかやけににこやかに、しかも親子揃って見送られながらお店を出た。外はもう薄暗い。


「すっかり長居しちゃったね」

「うむ。しかし俺には充実した時間だった」


宙を見た幸村の眼はぽわんとしてる。きっと私が説明したたくさんのスイーツを自分なりに想像してるんだろうな。すごく興味津々って感じだったもん。

こんな反応見ちゃうと食べさせてあげたくなってくる。でも私は本とかネットとかで作り方見ながらしか作れないしそもそも材料がなぁ。


「あ、カステラ!」

「かす寺? どこの寺の名前なのだ?」

「お寺じゃなくてスイーツだよ。金色でふわふわしてて甘くて凄く美味しいんだよ」

「ふわふわした金色の甘味・・・」

また幸村の視線が宙を見た。


「前に政宗が作ってくれたことがあるの。だからカステラならこっちでも作れると思うんだけど・・・」

「なにか問題があるのか?」

「材料と作り方が分からないの。政宗に聞いておけば良かったなぁ」


食べられるかもってなった後にやっぱり無理だとなって落ち込む幸村を見てたらますますそう思った。ふわふわしててちょうど良い甘さで凄く美味しかったもんなぁ。

って私ったら何思い出しちゃってんの!

頭の上辺りをパタパタ払う。カステラの味だけじゃなくてその後のことまで思い出しちゃったからだ。腕の力とか抱きしめられていると落ち着くような安らぐような感じがしたとか。それに、煙管の匂い、まで。


「ああもう!」

「紗夜? どうしたのだ?」

「な、何でもない! 気にしないで!」


一つを思い出すと連鎖的に他のことまで思い出しちゃって、それがなんだか恥ずかしくなってぶんぶん頭を振ってたら幸村にびっくりされちゃった。頬も熱いし、早く頭の中を切り替えなきゃ。


「えぇと・・・・・あ、そだ。あれがあった! あれなら作れるかも」

「本当か!? して、あれとはどんな甘味なのだ?」

「栗きんとんって名前の栗のお菓子だよ」

「おお! それなら俺も知っている」

「え、そうなの?」

「うむ。少し前に佐助が作ってくれたのだ。上品な甘さがくせになる甘味であった。初めて食すものだった故よく覚えている」

「そうなんだ」


でもなんで佐助は知ってたんだろ。情報収集の中には幸村用のスイーツ探しもあるのかな? あれ? でもこの時代に栗きんとんってあったっけ? あ、でも世界が違うなら可能性はあるか。


「紗夜も栗きんとんが作れるのか?」

「うん。作れるよ。明日にでも作ってあげるよ」

「誠か!? 佐助に頼んでももう栗の時期は過ぎたから無理だと言われて諦めておったのだ」

「あ」

「紗夜?」

「ごめん、私も無理かも。そのこと失念してた」

「そうか・・・」


あー・・また落ち込ませちゃったよ。ダメだなぁ。久しぶりに元の世界のことをたくさん思い出したから時期がちょっとズレても外国産のが手に入る、なんてこっちじゃ無理なこと忘れちゃってた。

他に幸村が食べたことがなくてこっちでも今の季節でも作れるものって何かなかったかなぁ。


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