この蒼い空の下で

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恥ずかしいしムカつくし足痛いしでなんかもう泣きたい気分になってくるしでいっそこいつの顎に噛み付いたろかと思って顎を狙ってたら、変態が木々の向こうを見た。その少し後に誰かを呼ぶ人の声が聞こえてきた。


「佐助ー!」

「旦那! こっちだよ!」


この超失礼でムカつく男はさすけって名前らしい。呼び掛けに答えると私の手を解放して素早く着物も直してくれた。だけどそれでこいつがしたことをチャラになんて出来るわけがない。なんとかして仕返ししないと気が済まない。


「痛い痛い痛い!」


脇腹を指でブスッと突いてやろうとしたら素早く手を掴まれて捻り上げられた。痛い! ギブギブ!


「忍に向かって何かしようなんて美夜ちゃん馬鹿?」

「馬鹿って言うな馬鹿!」

「ん? 俺様が何だって?」

「ナ、ナンデモナイデース」


政宗みたいに笑顔で怒らないでよ! 怖いじゃない!

捻るのはやめてくれたけど手首を強く掴まれたままさっきさすけを呼んでた人が来るのを待つ。

まず最初に目に入ったのは赤。ジャケットらしきものも腹部を覆う鎧らしきものも足元も赤。ズボンみたいな袴?の柄も炎を図案化したものだから暑苦しそうだと思ってしまう。

距離が縮まると顔もはっきり見えた。長い鉢巻きを絞めたその顔はイケメンだ。政宗ともさすけともタイプの違うイケメン。母性本能をくすぐる感じ。歳は・・多分私より一つ二つ下、かな?


「女子? なぜこのような場所に・・・。もしやこの女子が?」

「そうみたいだよ。これ持ってたしね」

「え? あれ?」


なぜかさすけの手にはさっきまで私の首にあったはずの笛があった。取られたのに全然気付かなかった。セクハラされた時?

幸いお守りは取られてなかったけど、これは笛と違って大切なものだから念のために着物の奥に押し込んでおいた。


「それは忍笛か? それを持っていたということはこちらの女子はどこかの姫君なのか?」

「姫君だって、美夜ちゃん」


これみよがしにニヤニヤ笑う佐助をギッと睨みつけた。


「どーせそんな風には見えないってんでしょ。そんなの分かってるわよ! ってかお姫様じゃないんだから見えなくて当たり前なのよ!」

「夏からずっと伊達政宗の許婚の姫君役をやってても欠片もお姫様っぽく見えないなんて美夜ちゃん可哀相だねー」


わざとらしい同情の顔を作って頭を撫でてきたさすけの手をバシッと叩き落とす。


「別にお姫様みたいなことしてたわけじゃないんだから仕方ないじゃん! ってなんで知ってるの!?」


驚き過ぎてさすけへの怒りすら一瞬忘れた。そんな私にさすけは肩を竦めた。


「俺様は忍だって言ったろ? 忍の仕事は情報収集が第一なんだよ」

「忍? え? あんた忍なの? ってことは私元の世界に帰って来たわけじゃないの?」

「気になる発言ありがとう。俺様美夜ちゃんのことがもーっと知りたくなっちゃった」


にっこり笑ったさすけが顔を覗き込んできた。パッと口を手で抑えてブンブン首を振る。

もう絶対何にも喋らないからね!


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