この蒼い空の下で

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お城の正門を目指して大通りを歩いていたら、向かい側から綱元さんが現れた。側には私付きの侍女の一人、楓さんも居る。楓さんが側に来て、持っていた外套を肩に掛けてくれた。お礼を言って着ながら綱元さんを窺う。

冷たい視線を向けられていて、背を向けて逃げ出したくなる。でも悪いのは私だ。そっと深呼吸をして気持ちを無理矢理にでも静めて綱元さんの前に立ち、頭を下げた。


「勝手に抜け出してごめんなさい」

「抜け出した、ですか?」

「え?」

「抜け出したのではなく逃げた、の間違いでは?」


冷たい視線の中に、嘲りの色が混じる。なぜ、と考えてその理由に思い至る。


「逃げても、一人じゃ生きていけないことは分かってます」


頼れる知り合いも居ない。この時代のお金も持ってない。なにより平和な時代に生まれ育った私が、戦国の時代で一人で生き抜くのは不可能に近いことくらいちゃんと分かっている。


「そうですか。そこまで愚かではなかったようですね」


淡々とそれだけを言って、これで会話は終わりとばかりに綱元さんは踵を返して先に歩きだした。視線が消えたことで無意識に詰めていた息を吐きだし、慌てて後を追う。

綱元さんの後ろ姿からは手間をかけさせて、と憤っているのが伝わってきてますます申し訳ない気持ちになる。

綱元さんは政宗から留守の間の私のことも頼まれていた。なのに私が勝手に誰にも何も言わずに抜け出したりしたから迷惑ばかり掛けてしまったんだろう。お城に着いたらもう一度謝ろう。

正門に着くと、門衛の二人の兵士さんが私のことを不思議そうに見てきた。いつの間に外に? という視線。どうやら私が居なくなったことを知らないみたい。気付かれて無かったというより、綱元さんが騒ぎにならないよう何らかの手を打ったんだと思う。

正門脇の通用門から中に入り、幾つか小さな門を抜けて漸く本丸に着く。では、と去ろうとする綱元さんを慌てて引き止め頭を下げて謝った。


「もう結構ですよ。ですが次からは私に一言言ってください。私達は貴女を城に閉じ込めているわけではありませんから、言ってくだされば城下に行くことを止めたりはしません」

「分かりました。あと、あの、」

「まだ何か?」


全身で私を拒絶する雰囲気と、冷たい視線に気圧される。何度も唾を飲み込んで深呼吸を繰り返すことで、逃げ出したくなる心を抑え込んで綱元さんの眼を見る。


「私、確かに今まで何にも分かってませんでした。そのことで周りに迷惑を掛けてしまっていたと思います」

「構いませんよ。貴女が無知なのは今更ですから」

「はい。だからこれから知っていこうと思います」


綱元さんの眼が大きく見開かれた。


「何を、知っていくと?」

「この世界のことです。少しでも理解出来るようになりたいんです」

「・・そう、ですか・・・」

「?」


綱元さんは僅かな間眼を伏せたあと、私を見た。何かを探るような、確かめるような、そんな視線。直ぐに冷淡なものに戻ってしまったけど。


「精々頑張ってください。蒙昧無知で甘い考えの貴女にどこまで出来るか知りませんが。では」


去っていく綱元さんの背中を見ながら違和感を感じた。まるでわざと酷い言葉を選んでるような・・・。でもそんなことをされる理由は思い当たらない。

気のせい、だったのかな?


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