pop'nV

□ロマンチック・ドリーム/ドライブ
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久しぶりに深い眠りに落ちた夜、僕は夢を見た。


「良い夢を見たよ」
「どんな?」

向かいの椅子に座るサナエちゃんが淡いオレンジ色のカップに角砂糖を静かに落として柔らかい声と言葉を返してくる。

「どこかの国に居てよく晴れた日にドライブしてる夢」

ミルクをたっぷり入れる柔らかい香りと味が彼女の好み。店内に流れる音楽とよく合う香りだ。

「楽しそう」
「楽しかったよ」

僕は彼女に向けてにっこりと笑う。夢のことを思い出すと気分も上がってくる。眩しく鮮やかなオレンジ色の太陽と所々に散らばる白い雲と青空のコントラスト。広い広いただ真っすぐな道を素晴らしく―鮮やかでキラキラした空に負けないぐらいに―美しいピカピカなエメラルドグリーンの車で走っていく。

「サナエちゃんを隣りに乗せてね」
「わたしを?」
「うん」

どこかあどけない…だけどとても可愛らしい表情を浮かべた女の子に再びにこり。ワンピース姿の彼女を助手席に乗せて青空の下、明るく会話を弾ませながら楽しくドライブする。

「そんな素敵な夢だったんだ」

そこまで言って急に気恥ずかしくなった僕は誤魔化すように砂糖もミルクも入れていないブラックコーヒーを一口飲む。思ったより苦い味に心の中で苦笑する。

「それは…」
「ん?」
「とっても素敵な夢ね」

小さな唇の両端を軽く上げて夢見るようにうっとりと彼女は微笑む。
…その微笑に思わず見惚れてしまう。

「わたしも見たかったなぁ、その夢」

眉を少し下げて残念そうに呟いてから、彼女はカップの中身をスプーンで軽く掻き混ぜる。

「一緒に楽しめてたらもっと素敵なのにね」

叶わないことだとわかっているから尚更残念そうにサナエちゃんはまた呟く。

「その必要はないよ」
「え…」
「そりゃ素敵で良い夢だったよ。だけどなんで夢だけにしちゃうの?」
「?」
「僕がなんでこの話をしたんだと思う?」
「どうして…なの?」

掻き混ぜる指を止めてじっと僕を見つめる黒い大きな瞳。
見つめ合うには少し照れくさい気分はまだ抜けない。だけどこれは誤魔化すわけにはいかないところ。

「目覚めてすぐに思ったんだ」

爽やかな朝に相応しくすっきりと目覚めて初めに浮かんできたのは彼女のこと。

「サナエちゃんに会いたいって」

そうやって彼女のことを思い浮べながら今日一日の真っ白なスケジュールは頭の中で色鮮やかなものになり広がっていく。

「夢みたいに鮮やかで綺麗車じゃないけど」


その予定に心を弾ませて僕は夢のことをサナエちゃんに話そうと考え、勢いよく引いたカーテンから見える雲一つない青空を視界いっぱいに収めて更に胸のリズムを早くさせた。
今日はなんてドライブ日和なんだろうか。

「これからドライブしませんか?」


「えっ…ドライブ?」
「うん。今日は車に乗ってきたんだ」

今日も待ち合わせたカフェの窓際の僕らのいつもの席。大きな四角い窓から見える位置に停めてある夢で見たのよりは小さな車を指で示す。

「ほら。あそこに」
「あ…ホントだ」

古くさい型のわりには燃費はそこそこの愛車にもちろん愛着はあるが、こうして遠目から眺めてみたらホントに小さい。夢の中の夢の車とは大違いだ。
何だか少し溜息をつきたくなってきた。

「良いね」
「うん?」
「こんな良い天気にドライブなんて気持ち良さそうね」

耳に入ってきた声に溜息を抑え、そちらへ顔を向ける。

「レオくんとドライブも久しぶりだね。ふふ…何だかわくわくしてきちゃった」

サナエちゃんは窓から見える小さな僕の車を眺めながら微笑ってそう言った。
その何気ない言葉と自然な表情にはっ、とする。

「子どもっぽいかな」

窓の外へ向けていた視線をこちらに戻して彼女はちょっと恥ずかしそうに笑って小さく首を傾げる。

「そんなことない」
「そう?」
「うん」

それなら朝からずっとわくわくと胸を弾ませていた僕の方がよっぽど、だ。

「じゃあ…そろそろ行きましょうか」

立ち上がり、ジーンズのポケットに入れてある車のキーを取り出す。

「ねえ、どこへ連れていってくれるの?」

女の子の楽しげな微笑み、弾んだ声。
それに僕も笑い返しながら彼女の柔らかな手を軽く取る。

「それは助手席に座ってからのお楽しみ」

鮮やかな空やピカピカな車じゃないけど―でもとても愛着のあるヤツだ―夢と同じなのはワンピース姿の女の子だけだけど…軽やかなリズムを僕らはいつだってどこへだって刻めるんだ。



END

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