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□Up to Time a Go-Go
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ピーンポーン、ピーンポーン、ピーンポーン。
四角いボタンを三回押してチャイムを鳴らす。数十秒後、目の前の茶色のドアは勢いよく開き、リエちゃんはいつも明るい笑顔で迎えてくれるんだ。その笑顔を想像して頬を緩ませたまま僕は女の子を待つ。たが、この日―この水曜はそうじゃなかった。ゆっくりゆっくり少しだけ開かれたドア。彼女はそれの端っこからほんのちょっとだけ姿を現しただけで。顔を見せてくれない。

「こんにちは」
「…もう三時になった?」
「そうだね…今、三時ぴったり」

左手首にはめているお気に入りのブルーグレイの時計をちらりと見る。昨夜、時刻を時報を聞いて合わせたばかりだから大した狂いはないはずだ。

「都合悪い?また今度にしようか?」
「ううん。そうじゃない」

リエちゃんのすぐの返事にほっとする。今日は三時に彼女の家まで迎えに行ってデートの約束だったから。

「外に出たくない…」
「どうして?」
「……」

大きなため息一つ吐く音が聞こえて数十秒後、目の前の茶色のドアは勢いよく開き、腕をぐいっと引っ張られ強引に家の中へ迎えられた。

「入って」
「うん…お邪魔します」

予想外のことに多く瞬きを繰り返して捉まえられたままだった腕をそっと外されるのと同時に僕はリエちゃんを見る。

「あんまり見ないで」

グレイの毛糸の大きな帽子がすっぽりと彼女の頭を覆っていて深く被りすぎているそれに表情がうかがえない。

「どうしたの?」
「…切りすぎたの…前髪」

そう言って顔を俯かせた途端ずり落ちてくる大きすぎる帽子を慌てて押さえる姿は何だか微笑ましい。だけどここで笑ってしまうのは悪いから堪える。

「じゃあ出掛けるのはやめだね」
「いいの?」
「良いよ。今日は寒いしね」
「…」
「それに僕一人ならそんな帽子被らなくてもいいだろうし」

その言葉を言い終わってすぐに、リエちゃんは近くのドアを勢いよく開けたと思ったらバタンと閉められた。

「リエちゃん?」
「…スギくんのバカ」

これは…拗ねて閉じこもったの…か?

「……ほんとにすっごく短いの、おかしいの」
「うん」
「…笑わない?」
「どうだろう」
「イジワルだ…」
「だってリエちゃんがそこまで念押しするならもしかしたら…って思ってさ」
「……」
「笑いたいわけじゃないよ」
「スギくんはリエが閉じこもった理由わかんないの?」
「正直言うとわからないな。切りすぎたせいだけじゃないみたいだけど」
「違うよ」
「なに?…教えてほしいな」

リエちゃんはドア越しに小さい声でこっそり教えてくれた。『あのね、女の子はね、好きな人には可愛く見てもらいたいの。見ず知らずの通行人よりも誰よりも切りすぎた前髪なんて見てほしくないんだよ』拗ねた様な恥ずかしがってる様な声でそう伝えてくれた。

「わかるよ」
「わかんないよ。男の子にはわかんない。くだらないって思うんだよ」
「男はね可愛く見せようとは思わないけど格好つけたがりなんだ」
「…」
「格好悪いところや情けないところなんて見せたくないんだ。見たくないだろ?そんなの」
「そんなことない」

目の前に彼女が居るわけでもないのに僕は思わずにっこり笑ってしまった。なんて甘い否定の言葉。君ならそう言ってくれると想像していた。

「僕もそうだよ。くだらないとは思ってない。でもこんな風に君の顔を見れないのがつまらないと思ってる」

彼女が閉じこもったままの部屋のドアを少しだけ開ける。

「おいでよ」

ドアの陰から手まねきする。知らんぷりしないで。早くこっちへ来て。

「短いなら僕の方が短いし」
「…スギくんは似合ってるから良いの」
「ありがとう」
「……」
「今日はクッキー持ってきてたんだ。一緒に食べようよ」

そんなに嫌なら無理に帽子なんか外さなくていい。そんなのいいんだ。だから早く…

「早くおいで」

バタンと勢いよく開いたドアから飛び出してリエちゃんは勢いよく僕に抱きついてきた。飛び出した時にフローリングの床に大きすぎる毛糸の帽子が落ちる。

「確かに見慣れないから不思議な感じはするけどこれはこれで可愛いよ」

ぎゅっと目を瞑って頬を染めた女の子の短くなった前髪を緩く払ってまあるいおでこに軽くキス。

「…ウソツキ」
「そうかな」

拗ねた様にちょっと尖らせた唇にも軽いキス。

「ズルい…」
「そうかも」

ゆっくり瞳を開けてぎゅっと抱き締め返しながら、にこにこ笑う僕をじっと見つめて数秒後、

「リエもスギくんの顔が見れないとつまんないよ」

リエちゃんは恥ずかしそうな笑顔を浮かべて軽くキスしてくれた。



END

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