万屋

□静寂など
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月明かりに誘われて、宿屋を飛び出した。
夜の街はシンと静まり返っている。
澄みきった空に沢山の星が光っている。
あの星も、この星も。
「ふぅー」
久しぶりに星を見たと思った。
最近は戦ってばかりで落ち着く暇なんてない。
「おい」
振り向くとそこにはアルベルがいた。
なぜか気まずそうな表情をしている。
「どうかした?」
まさか付けられているとは思わなかった。
「別に…」
別に、と言っておきながらも何か言いたそうにしている。
でも、僕はアルベルから話してくれるのを待つ方で…。
大きな空を見上げた。
近くにある木々の囁きが聞こえる。
静まりかえっているこの空間に二人だけ。
「なあ、」
やっぱりアルベルは話しかけてきて、
「俺の事どう思ってるんだよ」
なんでそんな質問をするのか解らない質問をしてきた。
「え?」
「正直に言え」
だんだんと距離が近くなって、アルベルの顔が。
「近い、近いって」
そう言ってやっと気付いたのかアルベルは弾かれるように僕から離れた。
離れる瞬間、近かったから解ったけど、アルベルの奴、恥かしがってる?
「で、どうなんだよ」
やっぱり恥ずかしがってるんだろう、背を向けているのに、その背から何かを感じ取れる。
哀愁みたいな。
「好きだよ」
「………」
ああ、アルベルの背がどんどん。
優しくしてあげたい、と思う。
抱きしめてあげたい、という衝動にかられる。
「お前のスキは違いすぎっ」
アルベルの言葉は僕の突然の行動で遮られた。
「な、はなせっ」
寂しがるアルベルの背に抱きついて、強く強く抱きしめた。
嫌がってる割には全然力が入っていないアルベル。
「優しくしてあげたい、とかってダメなの?」
「…ッ……」
「抱きしめたい、も違う訳?」
「ちがっ…、く…ない」
抱き合って、抱きしめて。
自分達の心臓も、身体も潰してしまえる程。
静まっているはずの世界は、僕らの心音で包まれる。
全ての音が二人の前では意味をなさない。

END
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