庭球

□気の迷い
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「お前の事、好きかも知れん」
仁王君はそう言って私を困らせました。
「何言って…」
部活が終わって、いつものように帰り道についていた時でした。途中で仁王君が現れ、話があると言います.大事な話が、と。
「どうしたらええ?」
「どうしたらって…貴方こそ何を思って…」
いつもの仁王君らしくない真面目な表情に私は困惑しています。彼なりに必死に考えた事なのか、切羽詰まっているのがみてとれたからです。
「…なぜそう思うんです?」
だからなるべく冷静に物事を考えなければと思いました。
「…お前さんに欲情した」
「え?」
「お前さんの着替えの時とか…まあ、色々」
色々というのがとても気になりましたがあえて触れないでおきます。
「欲情したんですか…」
「そうじゃ、こう…モヤモヤっと」
「それは、えっと…私はどうすればよろしいので?」
「触らせて」
間髪いれずに返してかて私は驚きました。そうとう悩んでいた結果なのでしょうか。
表情はいつもの仁王君です。
「触れば気は済むんですか?」
「解らん、気の迷いかもしれんじゃろ」
そう言ってから仁王君は私に飛び付くようにして私を胸の中に閉じ込めてしまいました。
人肌というのでしょうか?触れ合うとなぜかいたたまれない気持ちになります。なんでしょう?落ちつくようで落ちつかない。
ああ、私もモヤモヤしてきますよ。仁王君。
だから私もそっと仁王君に触れてみる事にしました。
仁王君の背に腕を回す…。
ああ、とてもとても優しい気持ちになります。これはなんでしょう?
「柳生?」
「なんですか?」
「…キスしてええじゃろか」
少しだけ顔をあげるとすぐに仁王君の顔が…。
触れ合う唇と唇。
抱き締めてくる腕が力強くなったと思ったら、触れ合っていた唇もより深くなっていきました。
唇の隙間を縫って仁王君の舌が入り込んできます。なぜか気持ち悪いとは感じず、逆に気持ち良いぐらいでした。
「……ぅ…っん……」
喉の奥で声にならない音が響きます。
仁王君のモヤモヤが私に移ってきます。
触れていた唇は離され、脱力した仁王君の頭が私の肩口にことりと乗ってきます。
さらさらとした綺麗な髪が私の首筋を撫で、どんどん妙な気分になっていきます。
「ヒロシ」
追い討ちをかけるように耳元で甘く囁かれ、私は下半身の昴りに気付かされました。
「愛しちょる」
その言葉です。全ての反応はその言葉で言いくるめてしまえる。
貴方という存在が狂おしいほど愛しい。
「私も…」
この気持ちに嘘なんてないでしょう。貴方の躯もまた、私と同じように昴っているのだから。
「…そんな事言うとると絶対放さん」
「いいですよ、私も貴方を手放しませんから」


若かった頃の過ちだなんて言わせません。


END

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