庭球

□僕らの熱
1ページ/3ページ

「裕太君!」
自分の名が呼ばれ、ハッと我に返った。
顔をあげると、名を呼んだ観月の目と合った。観月は明らかに不機嫌そうである。
なぜなら、只今ミーティング中。
観月の視線だけでなく他の人の視線まで集まってきている。
「何、ボーっとしているんですか」
まったく、と言いながら観月は会議を再開させた。今日の観月はいつもとは違って機嫌が良くないらしい。きっと昨晩のことが原因だろう。
『あなたのことを考えていました』
等とは言えるはずもなく、自然と目は観月に向かった。昨晩、自分の腕の中で快楽に溺れた観月の恍惚さを思い返していた。
ブルリと身体に震えを感じ、結局ミーティングどころではなかった。
会議が終わり一人、二人と部屋を出て行く。
「裕太君は残ってください」
当然の事だが呼ばれてしまった。
他の部員が出て行き、会議室という広い空間の中に二人、取り残された。
観月は目で近くにこいと合図する。
先程の会議で使った資料に目を向けながら、
「裕太君、ミーティング中にボーっとするのはやめてください。」
資料に目を向けているせいなのか、それとも相当怒っているのか…、あるいは…。
「全く、集中力が欠けています。そんな事で試合に良い結果が出せると思っているのですか?何を考えていたのだか…」
裕太は沈黙するので、何か弁解する事は?と観月は視線を投げかけてくる。
それでも何も言わない裕太に痺れを切らし、
「何か弁解することはないんですか?」
眉間に皺を寄せた観月の顔が、もう目の前まで迫っていた。
しかし、答えるわけにはいかない。
ミーティング中にはあなたの事を考えていて、しかも、機嫌がかなり悪い理由は昨晩の行為が含まれているんですか?なんて口にしただけで…。怒るに決まっている。
「なぜ、黙ったままなんです!?」
声が荒らげられ、ビクリと背が弾む。
結局言っても言わなくても怒られているのだが…。
「どうしても理由を言わないのですか?」
ハッキリとこの場で言うべきか否か。
ぎゅっと拳をにぎり、
「―――……考えていました」
小さく、できるだけ小さく、細い声で答えた。迫りつつあった観月の距離が一旦後退する。
観月の顔は見る見るうちに紅潮していく。
どうやら聞えたらしい。
更に一歩、後退してコホンと咳払いを一つ。
「こ、今度はボーっとしないように…。」
恥ずかしさを隠すかのように背を向ける。
スラリとした背中姿が妙に色っぽく裕太の目に映り、触れたいと心が思うより先に身体が先走った。
自分の腕中にがっしりと拘束する。
「な、イタ。裕太君!」
嫌がる観月の行動に微笑んでしまう。
腕から伝わってくる温もりを更に感じたくて強く抱きしめる。
「ちょ、やめてください裕太君。」
観月の振り向いた瞬間を狙って唇を奪う。
「んっ…」
観月がもがく程に裕太の拘束している手の強さが強くなっていく。
観月が堅く閉ざした口に裕太の湿った舌が割り込んでいき、逃げ場のない舌は熱を帯びた裕太の舌が捕らえ、ねっとりとした感触が身体中を走っていく。
「ぁ…は…」
艶のある声を漏らす観月。それは裕太の独占欲を掻き立てゾクリと全身を駆け巡った。
艶のある観月の唇にそっと指で沿い、二度目のキスをねだる。
その時ガチャという音が聞え、そう思った時には観月は裕太を突き飛ばしていた。
「おい、観月?」
ドアからひょっこりと顔を出したのは赤沢であった。
彼の目にすぐさま無様にひっくり返っている裕太の姿が映る。
そして、観月の頬が赤く染まっているのを見れば…。
彼は自身の身を案じた。
なぜなら『邪魔をした』から…。
「どうしたんです?」
観月は冷静に顔を作って答えるが、ただならぬ怒りの念をひしひしと身体が感じ取る。
いうなれば野生の感…?
「ああ、明日のことで…」
次に内容を言おうとした時、
「裕太君はもう帰っていいですよ」
声が裏返る。
顔は冷静に作ることができたが、声は動揺の色を隠すことができなかったようだ。
裕太は黙って会議室を出て行った。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ