庭球

□空いた映画館
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ガラガラに空いた映画館。夜はほとんど人が居ないといってもいい。
スクリーンだけが異様な光を放つ。
仄かに暗くなった部屋は眠気に誘われる。
映画の内容が内容ならもっとだ。
「乾?」
「何?」
平然を装ってみたが、手塚の眉間に数本の皺が刻まれたのをはっきりと確認した。
「寝るのか?」
「やだなぁ、ちゃんと見てるじゃない」
確かに見てはいた、内容をどうこう言われると痛い。
「それに、手塚からのプレゼントだよ?見ないはずない」
それを言葉にする事で更に罪悪感が芽生える。
乾は澱んでいた意識を覚醒させようと姿勢を変えようとした。
「手塚?」
前のイスから伸びる影の裏で、手塚は乾の手を握る。
誰もいないけれど、誰にもみつからないように。
「これで、寝ない」
「だから、寝てないって…」
乾は苦笑しつつも、嬉しすぎてどうにかなりそうだった。
「まだ、お前の誕生日という日は終わっていないからな」
「今日は一日一緒にいるつもり?」
「そのつもりだが?」
「敵わないね」
手塚はそっと自身の唇に空いている手の人差指を添わせた。
「こういう日って手塚からするとかない訳?」
手塚は口付けが欲しいと言っているのだ。
いつの間にかできた、暗黙の了解。
「お前は俺のモノだからいいんだ」
「何それ…」
乾はいつも通り自分から手塚の唇に自身の唇を近づけた。
そっと触れてみるといつも通りだった。
「解った」
「何がだ?」
「手塚は、キスもらえる事で俺の事を自分のモノだって確認するんでしょ?」
手塚は嬉しそうに微笑んで、今度は自分からキスをしにいった。
いつも通りじゃないキスはどこか幸せな気持ちになれた。

映画の内容なんてさっぱりだ。
でも、今年の誕生日は、




優しい気持ちになれた




END

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