庭球

□真実の愛、虚偽の愛 連載
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『右の者を楽園追放に処す』

ずっと昔にアダムもイヴも言われたのかと思うとお笑いだ。
俺の名は跡部景吾。歳は今年で16になる。
只今、俺は最高裁判所の判決により“楽園”で最も重い刑に処せられた。

『罪人、何か申し立てはあるか?』

汚い物を見るかのように裁判官が俺を見た。
お決まりの言葉を並べて何が楽しいんだか…。
「別に何も」
俺は悪い事なんてしちゃいないんだから。
楽園追放をさせられる奴は2種類の人間。悪人、まあそれも様々な奴がいる。そして、同性愛者。
俺はそれの後者に当てはまってしまったのだ。

『己の罪を悔い改めぬと申すか』

裁判官の怒涛の声が鳴り響く。
「この俺のどこに罪がある!」
せせら笑ってやった。
俺の罪?
そんなものがあるとしたら、…俺の存在こそが罪。
俺がいなかったら、あの人も俺を抱こうだなんて思わなかったはずだ。
今頃、あの人も俺と同じく処せられているのだろうか。上手くしたら、もし、運命というものがあるのなら、再び会えるだろう。
なぜなら、楽園には東西南北それぞれに門が一つずつ備えてあり、罪人はそこから外に堕されるからだ。
どれを通っても楽園から一歩でただけで死ぬと言われている。でも、実際どうなのかと言うと行った奴にしか解らないし、行った奴は楽園に帰ってくる事はないから解らずじまいだ。

遠い昔。人間が馬鹿げた争いで地球の生態を壊してしまった。生き残った有能な人物が有り余る富で最新の科学技術を使い楽園を造ったという。
楽園へ辿り着いた、外に残っていたわずかな者達はこう書き記している『なぜ、ここには酸素があり、緑があるのか』。

それだけ世界は汚れていると推測できる。
幼い頃からここにいる俺には解らない事だった。
「何をボーっとしている!」
警官隊の奴に背中をこづかれた。せっかちな奴らだ。
紅き門が目の前まで迫ってくる。
「…最南端か」
紅き門は南の方向に備えられている門だ。
中央に住んでいた俺にはこれさえ初めて見るもので、この門の先にはもっと未知なるモノがある訳で…。
ゴーっと地響きをたて、門は開いた。
門番達と警官隊に壮大に見送られ、俺は外への一歩を踏み出した。
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