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□天国までの階段
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どうして神様は人間という生き物をつくったたのだろうか。たまたまつくった泥人形が意思をもってしまったのだろうか。
神様も独りが寂しかったのだろうか。





『天国までの階段』





俺の両親は小さい頃にはもういなかった。海外に旅行へ行ってそのまま帰らなかった。
俺は天涯孤独。
ヒトリで何でもできるし、ヒトリで何でもやった。
だからヒトリが楽だった。



こいつがくるまで…



元々、二人部屋の寮だったから二人住むのは当たり前だった。
「真田弦一郎だ、よろしく頼む」
なんとなく逢った瞬間に同類だと感じた。
独りに慣れているような。むしろ独りにされてしまう方かもしれないけれど。
「柳蓮二だ。珍しいなこんな時期に」
「…まあ、色々あってな」
真田はそんな風にして話を反らしたけれど何となく解ったような気がした。
窓の枠にぶら下げている風鈴がチリンとなった.ずっと遠くにはカエルの合唱が聞こえる。都会から離れたこの学校には少しばかり浮いた人間が集まる。
「蓮二、と呼んでくれ。気が楽だから」
「解った」
軽く挨拶した俺達は静かに寝床に着く。
ウキウキしてる自分がいた。真田弦一郎という男がどんな奴なのか凄く興味がある。
明日はいい日になるだろう。








俺の一日は奴の観察で始まった。朝、早く起きて奴の寝顔を覗いてやろうと決め込んでいた。
「蓮二?」
だけど逆に見られた。こいつは何時に起きたのだろう。ただいま朝の5時。
「早いな」
「ああ、…」
真田は何か言いたそうな表情をした。でも俺はあえて何も言わなかった。
聞かれる内容が自分にとって嫌なものだったら避けて通りたい。だから聞かない。
それに、転入して来た奴の事だから。
「朝食、一緒に行こうか」
自分でも珍しい事をしていると驚愕する。物静かな男なのか真田は黙って頷いただけだった。


朝食はスタンダードに米。
食べてる姿さえも興味をひいた。なんて綺麗に食べるのだろうか。
「弦一郎は和食派か」
納得するような、独り言のようなものがついでてしまった。
「………」
「何かまずい事を言ったか?」
押し黙ってしまうのはこいつの癖らしい。
真田も触らぬ神に祟りなし?
「…まあ、和食派だな」
「ふーん」
触れて欲しくないのなら触れはしない。俺も触れては欲しくないから。
「蓮二は?」
「ん?…どちらかと言えば和食だな」
そうか、と短い返事の後、微かに笑った。あまりに穏やかに笑ったものだから見逃す所だった。
「何に笑っているんだ?」
「…笑っている?」
「微かにだが笑ったな」
「うむ、そうか」
本人も気付かないぐらいだから貴重なのかもしれない。
「そろそろ行こうか…一緒に登校しよう」
また微かに笑った気がした。でもさっきよりずっと微かでなんだか妙な気分になった。


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