マガ配信済

□■はこ■
1ページ/15ページ

私は彼の医師をしているものです.
「柳生先生、秘密基地ってワクワクしません?」
「そうですね.幸村君は秘密基地が欲しいですか?」
彼は幸村精市君.最近11才になったばかりだ.彼は病気のせいで10才まで生きられないと言われている子だった.
「はい」
少し大人びた仕草をしていて,時折見せる笑顔が可愛らしい.
「柳生先生、先生」
「聞いてますよ」
「あのね、ここからダンボールが見えるでしょ?」
そう言って幸村君は窓の際に走っていった.
「ほら」
指差すほうを見ると本当に段ボールが置いてあった.小さい子が何人かでそれを囲んでいる.
ああ…だから.秘密基地.
「あれなら先生でも入れるよね」
つめれば大人二人は入るかもしれない大きさの段ボール.
「そうですね…」
笑顔を崩さないように…見破られないように.
「僕なら何人入るかな」
「幸村君はこの世に一人しかいませんよ」
「でもね、せん…あ!」
段ボールが動いた.
中に誰かが入っていたからか.でも大きく動いた.囲むようにして段ボールの周りにいた子供達が散っていく.
「…いぬ?」
「白い狐がいるんだよ」
幸村君は満面の笑みで笑った.私も笑った.
「さぁ、少し横になりましょう」



どうして白い狐なのだろうか.子供の独創性とはどこまでいくのだろう.
「ひろし、何を考えている?」
同僚の柳蓮二は私と二人きりの時は必ず『ひろし』と呼ぶ.どうやらそれが柳の愛情表現らしい.
嫌いな奴はほとほと嫌いだとオーラで伝えてくる.
「子供の想像力は凄いですね」
「子供だからな」
そっけない答えをくれる.でも答えてくれるから今日は機嫌がいいらしい.
「貴方こそ、何かあったのでは?」
「段ボールに人が住んでいた」
「え?」
「あれは白い狐だ」
そう言って柳は笑った.
「お前も見に行ったらいい」
笑みがとても深く.そんなに柳君の興味をひくものなのかと考え込んでしまう私は馬鹿なのでしょうか.
今からいけばいい,とだけ柳君は言うと行ってしまいました.どうやら理事に呼ばれていたようです.赴く足取りが軽い.なんでも柳君は理事に恋しているとか…男なのに男に恋をしているとか.
私には理解不能な世界です.

折角です.見に行きましょう.
白い狐を.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ