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□天国までの階段
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そこにはいつもの生活があるようで、少しだけ違っていた。
なぜか目がいく。嫌でも…。
真田弦一郎という男に目がいく。彼が何か特別な事をしたからではない。彼の何気ない仕種に惹かれる。
「大丈夫?」
講義が終われればいち早く真田のもとに駆け寄った。それほど離れて座った訳ではないけれど。
「…帰ろう」
そう真田は呟く。疲れているのか。環境にまだ慣れていないのか少しだけ顔が青かった。



「大丈夫か?」
寮に着くなり真田はベッドの上に寝転がった。丁度、半分。左右対照に家具やら机やらが並んでいる。
俺は何もしてやることができなかったから大人しく自分のベッドに腰を下ろした。
そんなに離れていないベッド同士は話にはそれなりの距離だ。
「気持ちが悪い」
「緊張して疲れたんじゃないか?」
「わからん」
「何か冷たい物でも持ってきてやろうか?」
「いらん…」
「弦一郎?」
真田は頭を枕に埋めている。些細な仕種が目を惹く。
なぜ俺はこんなに惹かれるのだろう…。同類だからといってこんなにも惹かれた事は一度だってない。
「…傍に…」
スッと差し出される手にフラフラと手を差し延べる。真田のひんやりした手が気持ちよくて頬にあててみた。
「蓮二」
優しい声が耳を霞める。自分がどんな行動にでているか気にも止めない。
真田の手に少しだけ力が籠ったかと思ったら引き寄せられていた。



なぜかぼんやりしていた。女だったらもうちょっと気のきいたリアクションもとれただろう。
真田の心音が心地よく耳に響いてきて、ぼんやりしてしまっていた。
「お前が気になって仕方がない…出会ったばかりだと言うのに」
真田の大きな手は器用に俺の髪を梳く。
俺はどう真田に言ってやればいいのか解らなかった。でも真田の手に安堵したのは確か。
「触りたかったのか?」
俺は真田の胸に転がっている躯を少しだけ起こし、わざとらしく笑ってやる。
「ああ…」
遊んでやろうと思ったのに真顔でそんな事を言うのは反則だ。
なんだっていい、どうだっていいような気分になってしまうではないか。
「そうか」
「触られるのは嫌いか?」
「どちらかと言えば」
「なら…」
「止めなくていい」
真田の言葉を遮ったのはどうしてだろう。このままではいく所までいってしまうのは解っているのに。
「触るだけだ」
暖かい手はずっと昔にいなくなった両親の手にも似ていた。
「弦一郎」
甘えるつもりはなかったのに、嫌に甘えた声がでた。でも、甘やかしているのはお前だ。
「セックスしよう」
「…触られるのは嫌いなんだろう?」
「お前ならいいと思う」
真田の腕が俺を引き上げる。真田の顔の近くまで引き寄せられてキスを一つ渡された。
お許しの印のようなキス。でも駄目だよ、真田。君の下半身の昴りが丁度俺の昴りにぶつかってる。


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