庭球

□五月雨
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その日は朝から雨だった。
雨ってのは結構、憂鬱だったりするんだけれど、今日の朝はそうでもない。
冷えたガラス窓が曇っていた。
そんな些細な事に笑みが零れた。



幸せだ。



なのでここに幸せの記録を残そうと思う。
まずは自分の名前を。



『千石 清純』



その隣りに君の名前。
名前だけ、名前だけを書いてみる。
ほら、幸せがもっと増えて行く。
目には決して見えない恐ろしいスピードで。



『仁』



君と結婚できたみたいで凄く嬉しい。
『千石 仁』
ちょっと語呂が悪いかな?
ふと思っていたら彼が後ろに立っている気がした。
なんとなく嫌な予感。

「あれ〜?アッくんお目覚めぇ〜?」

言った途端にガンと拳が頭の上に降って来た。
やられるとは思ったけど、本気で殴るのは止めて欲しいなぁ。

「なんなんだよ、これは」

とても呆れた顔をして、裸にシーツを巻いただけの姿で俺の隣りに腰を降ろした。



今日の朝は雨だった。
憂鬱に思えない雨は初めてだった。



「いいでしょ?」

「バカだろ」

言いながら彼は顔を逸らす。
恥ずかしがっている自分の姿を俺に見せない為に。

「好きだよ」

「……っ…言ってろ」



雨が降るたびに俺は君を想おう。



END

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