妄想本棚

□面白い人
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「ねえ」
「ん?なんだ」
「んーん、なんでもない」

怪訝そうな顔をするけど、そうか、と小さく言葉を零してからすぐに銃の手入れに戻る赤。

かこ、かちゃ。

彼が弄っているのは兵器だ。地球を侵略するための恐ろしい兵器。なのにちっとも怖くない。怖いどころか手入れの音が心地いいくらいだ。こうなってしまったのは、ギロロなら私を撃たないと安心しているからだろうか。それとも地球のものとは形状が違うからだろうか。否、前者だ。彼が生ぬるくなった?それとも私が、異様な光景に慣れてしまった?分からなくなる。

あなたは、私を殺しちゃうの?
私のことを殺せてしまうの?

時間を埋めるには物騒な質問が頭に浮かんだが、ぐっと喉よりも下に落とす。こんなこと聞いたところで、困るのは彼だから。こんな困らせ方よりも、

「今度一緒に映画観ない?」
「ほう、ペコポンの映画か。ものはなんだ?」
「恋心ダイアリーっていう先生と生徒のラブロマンス」
「ラ…!…見ない」
「なんでよ、見たら夏美ちゃんとも上手くいくようになるかもよ?」
「な、なんでそこで夏美が出てくる!」

侵略者のくせに照れちゃって。そういうとこが年相応じゃないんだよ。

こういうときの彼はいつもと違う魅力を見せる。銃の手入れしてるときも、闘ってるときも、いつだってかっこいいけれど、今は。

「じゃあSFは?」
「ふん、ペコポン人が考えるものなんてたかが知れてる」
「でもリアルな宇宙を描写してるかもよ?」
「…それなら面白いがな」

つれない。楽しくない。

別にギロロが好きとか、恋人になりたいとかそんなんじゃない。異種間コミュニケーションを取りたいだけだ。宇宙人が近くにいるなんて、そんなの面白すぎる。しかも相手がこんなに仏頂面の戦士なのに、私に友好的なら尚更だ。ただ友達として親睦を深めたい。毎日会ってるわけでもないし、たまにお話しに来る程度ではあるが。

かちゃ、かちゃ、かこ。

また銃の手入れに夢中になってしまった。

あまり私と話したくないのだろうか。別に私はギロロのことが好きじゃないから、それでもいいんだけれど。彼のことだ、ただ口下手なだけ。そう信じることにする。

…今夜の食事のために、スーパーに買い出しに行かなければ。
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