短い話

□君に溺れて死んでいく
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窓側の一番後ろの特等席。
そこが現在の私の机の位置。
誰もが羨むこの席に一つ、おーーっきな欠点がある。
それは、ーーー前の席に月島くんがいることだ。
190近くあるんじゃないかと見られる月島くんが前にいると、まったく黒板が見えないのだ。
体を斜めにしてやっと少し見える程度。
だから、いつもノートを友達に貸してもらい写させてもらっている。

「名前ー。はい、これ」

「ありがとー!いつもごめんね。」

「いいわよ。親友なんだし、ね!」

本当に申し訳ない。
でも、こんな素敵な友達をもててとても感謝している。
そして、友達はたわいないことを一言、二言話してじゃあ頑張ってね、と去っていった。


一人、黙々とノートを写していく。
放課後の今は段々と人が少なくなっていっていた。
一人、一人と帰って行き私とーーー……月島くんだけになっていた。


月島くん帰らないのかなー?
まだ、前の席に座ったままの彼を横目で見つつ思う。
正直集中できないし、なんか緊張するから、かえってほしいな。
月島くんが前にいるというだけで、なんか圧迫感があるんだよね。

私がそーっと、月島くんをみると
「っ、」

バッチリと目があった。
そして、彼がすっと私の机に乗ったノートを見て、
「ねぇ、なんでノートとってないの」

「う、え…あの、えっと」

本人にあなたが邪魔で見えなくてなんて言えないしな…
月島くんてなんか怖いしな。

「…」

「えーと、ちょっと、寝ちゃってて」

「ふーん、でもいつもノート友達に貸してもらってるデショ」

「えっとね、」

「……」

「(うわぁぁぁ!大ピンチだよぉ…)」

「…」

「(どうしようぅぅぅ…)」

他に言い訳をとくに思いつかず、慌てていると

「あははははっ!」

「え」

「名字さんおもしろいね」

「え、あ、あの!?」

「ごめんごめん。意地悪しちゃったね。」

イマイチ状況が読みこめない。
ただ、月島くんがすごく意地悪な笑みを浮かべていて、すごく怖い。

「ね、僕が邪魔で黒板が見えないから友達にノート貸してもらってるんデショ」

「う、え!?なん、で」

「そりゃ、あんな後ろでがたがたされてたらねぇ」

ばれてた!
後ろで黒板みようと、必死で体動かしてたの!

「でも、最近諦めたのか大人しかったよねー」

ニヤニヤと、月島くんは意地悪な笑みを浮かべていてこっちを見る。
普段の彼からはまったく想像できなかった。
いつも月島くんはヘッドフォンで音楽を聞いていて、かっこよくて、大人っぽいイメージがあった。

「う、うるさいな!」

すこし、反抗の色をこっちが見せてもまったく、表情をかえずこちらを見ていた。
そして、すっと、顔を私の顔の前に近づけた。

う、顔が赤くなっていくのがわかる。
性格が悪いと分かっても、顔がとても綺麗だ。
あーもう、目が合わせらんないよ!

月島くんはそっと艶のある声で
「次から、僕がノート見せてあげるよ。一応、僕にも責任があるからね。」

ニヤリと彼の唇が弧を描く。
私は、彼の行動一つ一つに捕らわれたように反応してしまう。

「ね、どう?」

そういった彼の提案に私はただ頷く事しかできなかった。
満足そうにした彼に、これから捕らわれ続けていくんだろうな、と頭の片隅でぼんやりと思った。



君に溺れて死んでいく
(はやく)(はやく)
(僕に落ちてしまいなよ)



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