本3

□だから僕を。
1ページ/2ページ

レン君が可哀そうな結果。





「あらあの子、また来てるわよ」
「本当鬱陶しい子よね。毎日毎日、店にやってきて本当居なくなってくれないかしら」

街の商店街の中心を僕は歩くといつも飛び交う視線と罵声。
僕の髪は汚れ果てってしまい何日風呂に入っていないのか分からなかった。
雨をシャワー代わりにしてる僕はもはやどこぞのホームレスと変わらない生活をしていた。
否、僕には野良犬がお似合いだろう。汚い姿で誰かに縋り付いて餌を分けてくれと愛想笑いをする僕は、人間から外されたのだろうか。
僕の家は母は居なく、父だけがいた。父は日ごろの上司からの文句を愚痴りながら僕の体に痣を作っていく。
家に居ても外に居てもさほど変わらない日常はもうすでに飽きていたが、家にいて殴られるよりかは言葉と言う刃物で心を浸食されていく方がマシだと思った。
まだ歩く気力も考える力もある。いっそ知らない所まで行って一人で朽ち果てようとも考えたほどだ。
しかし石が足の裏に刺さる感触を得てそれは無理だと体が悲鳴を上げる。
毎日歩く散歩コースではよりにも寄ってお腹が減る商店街。唾液が口の中に広がっていくのを感じながら俯き気味に罵声を聞く。
それはほっておくよりマシだから、だ。
ここで倒れて死ねば僕は誰かに見送られることが出来る。
家でひっそり死ぬよりマシだと考え始めた僕の頭はバグっているだろうか。
何週間も声を出してないせいか、出るのは空気を吸い込むのと吐き出す音だけ。
水は公園の噴水やら雨水やらを蓄えて飲む程度。
ご飯なんてもってのほかだ。
たまにくれる人がいるけどその人も最近来ていない。
正直、もう生きるのにも疲れを感じ始めたこの頃。
いつの間にか公園に出てしまったのか、僕は公園のベンチで横になりぼう、と空を見た。
母は、きっとまだ生きている。
父は母の事を一切話そうとはしない。勿論僕も話さない。話すと父の機嫌は悪くなり、苦い経験を脳裏に出す。
一時、金を稼ぐために性的な事もやらされたがそれも長くは続かない。
確かに、今の僕の格好では『汚い子犬と一緒にじゃれあいませんか』なんて言っているようなものだ。
誰がこんな犬と遊ぶものか。きっと骨を投げてそれで終わりだ。
骨を銜えて戻ってきたら主人はすでに居ない。
一度だけ優しくしてくれて二回目はもうない。

「…………死にたい」

久々に出た声は酷く頭に反響して現実感を与えた。
嗚呼、公園に来ている餓鬼どもも僕を嫌な目で見るのか。
僕にはやはり、あの家がお似合いなのだろうな。
飢え死にがお似合いなのかな。
ここで僕は死ぬのかな。
考え始めたのは暗い事ばかりで、目の前で砂の山を作ってる子供たちに対しても嫉妬してしまいそうだった。
あの服を奪い取って着てみたい。サイズが違ってもいいからそんな贅沢してみたい。
考えるほど出てくる嫉妬心。
羨ましすぎて涙が溢れ出てくるほど、僕は弱っていたらしい。
背中に寒気が走り足先に力が入る。
ギシリと歯がなって垂れる髪で顔を隠した。
頼る人がいない僕は、一体、どう、すれば………。
あふれる涙を拭っても拭っても出てくる滴を拭くのを諦め家に戻ろうと決心した。
噴水の水で顔を洗って少し水をいただく。
公園と言うのはありがたいと心から感謝した。
普段と変わらない商店街を歩けばまた罵声が降りかかってくる。
今ではこの道も苦しくて、だが違う道を歩けば道に迷うのも確かだった。



「………」

ガチャリ、と嫌な音が鳴って開くドア。それと同時にギギギ、と不敵な音が廊下を響かす。
この家は税を払っていないためか分からないがリビングの中では何やら騒がしかった。
少しリビングのドアを開けると中の人たちが気付いたのか、一斉にこちらを向く。

「てめぇ、夜まで帰ってくんなっつったろ!!」

父の声が部屋を響かせキッチリと着こなしたスーツの男女合計四名は父を止める。
今日は殴られないのだろうか。そう思いたいがきっとそれはないのだろう。
彼らが帰った後、もっと酷い目にあるだけだ。
これでも父を恨めないのは彼が父だからか何なのか。良くわからない。

「とりあえず、テレビや酒は差押させてもらいます」
「て、てめぇら!!」

嗚呼、税がやはり払えてないのか。いっそ僕も差押とやらで持って行ってくれないかな。
そしてそのままテレビでやっていたようにどっかのオークションに出してもらえばいい。
いい場所に運よく行けばそれでいい。

「僕も、差押してくれませんか?」

彼らに問いただすと税務署の女の人がしゃがんで僕の頭を撫でる。
そして優しく、拒絶するのだ。

「ごめんね? 私たちが押収するのは物だけなの」
「わかってます。だから、僕を物≠ニして差押してください」

床にペタリと座った僕を彼らは困った顔で見てくる。
彼らは優しい。
商店街の人達とは違う彼らの顔。
嫌そうなのは分かっていても、今ならこの家から逃げられる気がした。

「じゃあ、言い方を変えます。…………数日だけでもいいから、僕を他の場所に連れてってくれませんか?」

彼らは今度は僕では無く、父に目で問いたてると父はあっさりこんな子供はいらんと言うように手でシッシッ、と追い払う。
きっと彼らの心境はこうだろう。
僕を上手く使って金を貯めていないか確かめる。
そうだろうな。と思いながら、僕は逃げ出すように家から出て行った。



next→
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ