本3

□3
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collapse world
一世界
   四部品



「い…って……」
彼は体を起こそうと手を床について少し体を持ち上げると頭の頭痛か、何かで頭を押さえた。
いつからカタコトじゃなくなったのかと考えたが今は彼に集中しなければならない。
今の彼ではあまり力は出せないにせよ、僕を殺すことはたやすいだろう。
すると彼の目がギロリ、と横目に僕を見た。

「お前……」
「僕はリン。君は?」
「………男性型LloydREANISHERU」
「レアンイシェル?」
「あぁ。レンと呼ばれているがな」

彼の名前はレンと呼ばれているらしい。
レンは背中のコードがないのに気付いたのか、急に起き上がり僕の首を右手で掴み、人差し指で喉を当てた。

「arm、どこにやった」
「…アーム?」
「とぼけるな。俺の背中のだ。どこにやった」

力を入れられ、レンの爪が僕の首に食い込む。

「返したら、殺されかねないんでね」

冷や汗をかきながらそう言うと彼は取られたわけがわかったからか、ゆっくりと僕の首から手を引いた。
喉には彼の跡がついているようだけど気にしないことにした。

「…悪かったな。お前の気持ちも分からずに」
「結構学習してるようだね」
「何年間無理矢理記憶を与えられてると思う」
「でも、貯まりきったら消すだろ?」
「消せるならとっくに消している」

そこまで言うと手をこちらに差し出してきた。
それの意味が分からず僕は頭の上にはてなマークを浮かべ首をかしげる。

「食いもん」
「へ?」
「だから、食いもん頂戴」

変な声とともにレンの呆れた声が聞こえた。
横目で見たあの二人はあえて無視をしよう。ニヤニヤこっち見やがって、と言いたい感情も無視をした。

「お前らさ、俺がロボットだと思ってるだろ」
「ロボットじゃないの?」
「いや、まぁ…そうだけど。俺は腹も減るし涙だって出せる」
「……普通の人と変わらないってこと?」
「生活はな。用もたすぞ」
「……………そこはあえて無視してあげる」
「まぁ、別に寝なくても食べなくても生きられるけどさ。疲労も眠気もあるんだよ」

今でも難しい感情プログラムを昔の人はすでに開発済みだったわけか。
今のプログラムは感情プログラムから恋愛プログラム。色々と発展されている。
しかしそれはプログラムを買うと言うことで備わる。
地下のロイダと地上のロイダ。
それは物凄く異なる。
地下ロイダは忠実な犬のような存在。暴力機能はなく、危険とみなした行動はできない。
それに異なって地上ロイダは危害を加えない代わりに全てにおいて力が弱過ぎたのだ。皿を割ることもあった。その時に緑は無くなり、人々は地下に映る様になったのだ。
地下にも緑はあるもののそれはごく少なかった。
それに比べてレンは口も悪く力も強い。そして背中には武器にもなるものがあった。

「君のこともっと詳しく教えてほしいな」
「俺の事を?」
「僕らは君のプロジェクトしか知らない。データは君しかないだ。だから、頼むよ」
「……そのうちな」
「僕らにはまだ信用できない…か」

カイトがいつの間にかバナナを取ってきたようで、二本をレンに渡した。
それをレンは慣れた手つきで剥いていく。
それを歯で削り噛み、口を閉じて噛み砕く作業を繰り返す。

「んー。何百年ぶりの飯はうめぇな。電気は不味いわ。やっぱ」

そう言いながら美味しそうな顔をして食べるレンを見て僕は頬を緩ませた。
ペロリと食べ終わった後、レンは舌で唇を色く舐め欠伸をした。

「栄養価高いのな。これ」
「まぁ、バナナだからね」
「ちょっとさ、俺のコード返してよ」
「……トンズラする気?」
「なわけあるか。俺はここから出る道も知らない。出れたとしてもどうせやることなんて無いしな」

じゃあ何のために?そう聞こうとしたもののその理由は聞かなくて済んだ。
レンはベッドをポンポンと叩き寝むそうに言った。

「枕だよ。枕」
「………あの電気のが?」
「あれさー。Defaultarmとfeatherarmってのがついてて、お前らに向けたのはdefaultの方ってわけ。Featherの方でいいから返してくれない?」
「見分け方、とかあるのかい?」

とっさにカイトが口をはさむ。カイトは彼のコードを管理する人だ。
カイトの許可なしにはコードは返せない。と言うわけだ。

「触ればわかる。どっちがどっちかは名前でわかんだろ。いいな?featherだぞ。フェ・ザ・ア!」

カイトは奥に行ってしまったがメイコはそばにいた。
メイコはカツカツと固いヒールを鳴らしながらレンに近付きズイッ、と顔を近付ける。

「………何?お姉さん」
「あら、お姉さんなんて初めて言われたわ。…わかった。私の体が目当てなのね」
「だとしたらどうする?」

ニヤリと笑った彼をメイコはニヤリと笑い返して手を差し伸べた。
その手を見た瞬間、レンがバシッ、と勢い良くメイコの手を叩いた。
乾いたその音は部屋中を響かせ、瞬間レンが右足でメイコの腹を蹴った。

「…メ、メイコ?」

レンが蹴った所を丁度見ていたカイトは目を見開き手に持っていた3本のコードを落とした。
コードはボトボトと床に落ちて床の上で停止した。

「お、お前ェェェ!!!」

一瞬にして飛んできたカイトにレンは反射が追いつけず、右ストレートをくらい、ベッドに倒れこんだ。
そのままカイトはレンに馬乗りをして右、左、右と何度も拳をレンの頭に、頬に、腹に殴りつけていた。
レンは声も上げず殴られっぱなしでコードがなければ男一人も止められないただの人形だと言うことが証明された。

「………血? ッ!」

カイトは我に返ったのか自分の拳についた血を見て、自分の失態で凍りついた体を無理矢理動かし下を見遣る。
そこには口から、鼻から頭から血を流しながら、目を全開まで開けて震えるレンの姿があった。

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