長編

□もっと甘い嘘がいい
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カツカツカツカツ…


更に足音は近づき、丁度私達の部屋の前あたりで止まった。


しばらく、シーンとした沈黙に包まれる。


見つからないだろうか、と思えば恐怖で心臓が裂けそうなくらい煩く鳴っている。
そんな緊張している私に対して、雲雀さんは余裕そうに私の髪の毛を弄んでいる。

後ろを振り返り嗜めるような視線を向ければ
、むしろにやりと笑って私の耳元に唇を触れさせてくる。
そしてフッと息を吹きかけられた。

「……!!」

その瞬間、耳元からぞわぞわっとした感覚が広がり体中の力が抜けてしまう。
雲雀さんに自らもたれかかるような体勢になり、そしてそれを見越していたかのように更に密着させるように抱きしめられる。
雲雀さんの規則正しい心臓の音が体を通して伝わってきて、今度は別の意味で胸が痛いほどどきどきとしてきてしまった。

こんな状況なのに、こんなことをしていていいのだろうか…


カツカツカツ…


再び足音が動き、少し遠くで止まる。
早く行ってしまって欲しいのに、中々この通路からいなくなってはくれない。

「時間がまずいな」

少し足音が遠くに行ったから聞こえないだろうと思ったのか、耳元で小声で囁くように雲雀さんが話しかけてくる。
確かに腕時計を見れば、予定通りの作戦の時間を少し過ぎてしまっている。

「どうしますか?」

「いや、まだ少しは余裕があるから様子をみる」

雲雀さんが話すたびに、息がかかってぞくぞくとする。こんなんじゃ体がもたない。
無意識のうちに顔に熱が集まるのがわかる。

「そういえば、」

なにかふと思い出したように、雲雀さんが聞いてきた。

「ナギは沢田綱吉が好きなのかい?」

「!!」

思わず動揺して振り返り物音を立ててしまいそうになる。が、それをまた支えられ助けられる。

「突然、なんですか…」

「どうなの?」

非常に答えづらい質問なのに、早く答えろとばかりの視線を送ってくる。
しかし何故そんなことを雲雀さんに教えなくてはならないのだろう。
それに、この状況で今する必要性がわからない。

どう答えていいかわからず困っていれば、カツカツカツと先ほどの足音がして、その主が遠ざかって行ったのがわかる。
おそらくこの通路にも既にいないだろう。

「行きましたね…」

「あぁ」

お互い立ち上がり、部屋を出るタイミングを伺う。

内心ほっとしていた。
想定外の出来事が何とか済まされたことと、答えたくない質問から逃れられた事に。

出よう、とドアノブに手を掛けた時、雲雀さんにぐいっと引っ張られ其方を向かせられる。

「君が沢田綱吉を好きでもどっちでもいい」

真剣な、灰白の瞳が私の瞳を真っ直ぐ見据える。
何故か、目を逸らす事ができない。

「僕はナギのことが好きだから」

そういって、ふっと柔らかく笑った。
突然すぎる告白に、一旦脳内と体がフリーズする。

普段の鋭さと、真摯なまでの真剣さと、慈しむような柔らかさを兼ね備え熙る彼の瞳。
愚直なまでに、その瞳から彼の気持ちが溢れるほど伝わってくる。

ああ、本気なんだ、と思った。

あまりにも、客観的にしか受け止める事が出来なくて何も返す言葉が見つからない。
ほっとしたからなのか、今更になって部屋の武器からか火薬のきつい匂いが鼻を衝く。

早くこの部屋を出なくちゃ、とか、作戦までの時間が、とか、妙に冷静なことしか頭の中に浮かんでこない。
何か返さなくては、と思うのに。
彼の瞳をただただ見つめ返していることしかできない。


「返事が今すぐ欲しいとか、君を困らせたい訳じゃない」

沈黙を破ったのは雲雀さんだった。

「ただ、知っておいて欲しかったから」

僕の気持ちを、と言いながら額にちゅ、と軽くキスをされた。
一瞬何が起きたのかわからず、ただでさえパニック状態であった脳内が更に混乱する。

それと同時に、少しずつ雲雀さんは私の事が好きなのだということを噛み砕いて理解して来たところで、急に恥かしいような嬉しいようなよくわからない気持ちになる。
そして今の行動を理解して、顔が沸騰しそうなくらい熱くなった。

「あ、あの…」

「嫌がられていないようなら、これからは積極的に攻めてみようかな」

そういって、悪戯っ子のようにニヤリと笑った。
そして、ドアをガチャリと開けて先に廊下に出てすたすたと歩いて行ってしまう。
混乱する頭を冷やそうと深呼吸をしながら、遅れを取らないよう雲雀さんの後を慌てて追っていった。

















10分ほど進んだ後、目的の部屋の前へと到着する。
息を潜めて入る前に中の様子を疑う。

人の気配がしないことを確認して、部屋の中へと侵入する。

中を見渡せば、PCが何台か並んでおり、そして一番奥には大きなモニターがあった。
その手前には机と椅子が規則正しく揃えてあり、極一般的な会議室のようになっていた。
一体この部屋のどこに目的のシステムがあるというのか…

「この造りは恐らくフェイクだ」

雲雀さんが遠慮もなくズカズカと奥へと進んでいく。
確かに、このような研修義室のようなところに大事なデータが入っているとは普通では考えにくい。


そして数台のパソコンの前に向かう。

「ここにある可能性は低いですよね」

「多分ね」

一応のためと電源を入れ確認するが、勿論のこと何の情報も入ってはいなかった。
特にpassなども掛けていないあたり本当になにもないのだろう。

最終確認のため、最後のデータを開ける。


すると…

「…なに、これ…」


それを見た瞬間、言葉を失う。
何故、ここにこんなものが…?

私が一台のパソコンの前で固まっているのを不思議に思ってか、モニターの前に立っていた雲雀さんが近づいてくる。

そして、画面を覗き込んだ瞬間、息を呑んだのがわかった。


「ワォ、僕と君の写真じゃないか」






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