長編
□unusual days!
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「お父さん!」
「ナギ!待ってたよ!」
お父さんに飛びついて抱きつく。
会うのは一週間ぶりだった。
仕事で忙しくてなかなか会社から帰れないと言ってはいたが、まさか社長をやっていたとは。
母親を早くに亡くなっている私は自然と父親っこになっていた。
「…なんで…こんな大企業の社長をやっているって、教えてくれなかったの…?」
「…すまない。ナギが大きくなってから話そうと思っていたのだが…
いつ言えばベストなタイミングかわからなくってな。」
「…そっか…。もういいよ!お父さんが元気で働いていられるならそれで十分だしね!」
にっこり笑えばお父さんもほっとしたように微笑んだ。
「それで…
もうリボーンくんからすでに聞いているかもしれないが。
ナギに話したいことがある。」
神妙な顔をしたお父さんを見て、ただ事ではないのかと察する。
…私にとっては、あまりいい事ではない予感はする。
重々しい空気が流れ、エアコンの音だけが耳障りによく響く。
お父さんと私は向かい合うソファに座り、リボーンさんは私の近くに立った。
お父さんの話は、率直に言うとこの会社を継いで欲しいとのことだった。
内心、やっぱりかと思う。
リボーンさんに最初言われた時は、見ず知らずの人から言われたためか、もしかしたら嘘かもしれない、なんてわずかな希望を残していたりもした。
だが…実の父親を目の前に、しかも本人からこの話をされれば、信用せざるを得ない。
しかしまだ心のどこかで、これは現実なのかと疑っている自分がいるほど。
私にとっては受け入れ難い事実だった。
いや、受け入れたくなかったのかもしれない。
そして問題がもうひとつ。
「なんでなの!?なんで教えてくれないの!?」
「…すまない。これだけは…言えないんだ。」
お父さんは、これは何の会社かを教えてくれなかった。
「…教えられないほど…まずい仕事でもしてるの?」
なにを聞いても、お父さんは謝るのみだった。
そして後継者として考えられる者は私以外おらず、半ば強制ですでにきまっているらしい。
なにかとボンゴレファミリーとの機密が多い会社なので、血縁関係者以外は後継者として認められていないらしいのだ。
「なんの会社かわからないのに…継ぐことなんてできないよ。」
「そんなこといわないでくれ!頼む!ナギ以外にいないんだ!
このクラムカンパニーは、ボンゴレ創立の頃からある、歴史と格式のある会社なんだ。
…お願いだ…。」
実の父親に、しかも涙目でこうも訴えられては目の前で断るわけにもいかず、その場ではとりあえず承諾した形になってしまった。
唯一の血縁者な父親の願いとあらば…
できる限りは叶えてあげたいと思うのが普通である。
でも…
一体なんの会社なのだろう?
その一点だけが頭から離れず、しわのない脳みそで必死に思考をめぐらすことしかその場ではできなかった。
その後、リボーンさんと車に戻る。
「リボーンさんは信頼できるお方だから!
ナギの全てをお任せするよ!
よろしく頼むよリボーンくん!」
「任せとけ。」
なんて会話を先ほど父親としていたが…
リボーンさんて何者?
そもそも、会社を継ぐって…
なにをしたらいいの?
どうしたらいいの?
なんの会社かもわからないのに。
それにお父さんは、見ず知らずに人に私を預けて平気なの?
考える事が多すぎて、思考が追いつかない。
突然知らされた衝撃の事実と、それを理解することと、それについていく精神力が自分にはまだない。
しゃべる気が起きず、無言のまま車は自宅へと向かった。
部屋に戻り、床にへたりと座り込む。
全身の力がくったりと抜けた。
「大丈夫か?」
振り返ると、リボーンさんが少し心配そうな顔で立っていた。
「…私…なんだか少し混乱してて…
…ど、うした、ら…」
突然涙が溢れる。
何故泣くのか自分でもわからない。
人前なのに…
と思いつつも、なき始めると涙はとまってはくれない。
ポタポタと絨毯に染みを作り続ける。
「混乱して当然だ。泣きたい時は泣け。」
そう言って、リボーンさんは私をふわりと抱きしめた。
今日会ったばかりなのに、何故か安心して私はわんわん泣き始める。
「ひっぐ、お父さん、なんて嫌い、ひっく、
あんなの、私の知ってるお父さん、じゃないー、ひっく」
今日、お父さんの本当の姿を知って、今までの自分の知ってるお父さんが、
違う人に見えて…私だけ置いてけぼりな気がして。
この世で一人ぼっちな気がして。
「不安だし、寂しいし、やだよぉー、ひっく」
久々にこんなに大声で、子どもみたいに泣いたきがする。
私がなき止むまで、リボーンさんはあやすように私の背中をさすりながら黙って聞いてくれた。
どのくらいの間泣いていたのだろう。
随分泣いていた気がする。
その間もずっとリボーンさんは抱きしめててくれた。
人のぬくもりを側に感じるからか、安心したのか急に疲れと眠気が襲ってきた。
そのまま寝てしまいそうになる。
瞼は閉じ、視界と思考が真っ暗になってきたその時、
「俺が側にいるから大丈夫だぞ。」
と、リボーンさんの声が聞こえた気がした。
が、私はほとんど夢の中だった。