長編
□unusual days!
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「ぶっ」
ずんずんと歩いていたのを急に目の前で足を止められ、思い切りヒバリさんの背中に顔をぶつけてしまった。
止まったと同時に、ヒバリさんがくるりと振り返る。
辺りを見渡せば、人気の少ない橋の上に来ていた。
もちろん旅先なので正確にどこまで来たのかはわからないが。
視線を感じて、痛む鼻をさすりながら見上げると何故かヒバリさんが機嫌がよさそうな顔をしていた。
「あ、あの……?」
「今赤ん坊は君の家庭教師らしいね」
赤ん坊…?
1人考える素振りをすると、あぁ!と思い当たる人物を思い出す。
「リボーンですか!?」
「あの赤ん坊の生徒なら、君がどれほど強いのか是非手合わせしてみたい。」
そういってマジックのようにどこから取り出したのか、物騒なトンファーを構え出した。
「え、ちょっと、待ってください!」
「待てない」
相手は明らか私と戦闘する気満々だ。
慌てふためく私に容赦なくトンファーが振りかざされる。
もちろん戦闘能力なんてこれっぽっちもなく、護身用の銃を扱うのも精一杯な私は避けようもなく目をぎゅっと瞑る。
ドスッ
体から聞こえてはいけないような鈍い音がして、5mくらい吹っ飛ばされた。
受身も取れずさらにころころと転がる。
腹部から鈍い痛みを感じ、ゲホゲホと咳き込む。
「ワォ。君、ガードも出来ないの?」
近づいてくる雲雀を警戒して、ずるずると後ろに後ずさるが、雲雀を見上げれば本当にお驚いた顔をしている。
彼的にはお手並み拝見とばかりにかなり力をセーブした方だったのだろう。
手をついた時にできた擦り傷が痛むが、腹部の痛みは奥まではいっていないようだった。
「私、リボーンには主に勉強を教えてもらってるだけですよ…?」
もちろんマフィアになるわけではなくあくまで私の将来の仕事は会社経営なので、おつむの問題の方が重大なのだ。
「…そうだったのか。」
ヒバリさんは心底びっくりした顔をした後、眉を顰めて少し申し訳なさそうな顔をした。
そして物騒なトンファーをしまっている。
「…うっ…」
体を起こそうとすると、腹部からの痛みが全身に広がる。
固い鈍器で殴られたのだからそりゃそうかもしれないけど。
するとヒバリさんが屈んで私に背中を向けて来た。
「…え?」
「…乗って」
これは…
おんぶしてくれるってこと?
私が戦闘能力があると勘違いしたことを申し訳なく思ったのだろうか…
「で、でも、私重いんで大丈夫です!」
「いいから早くしなよ」
有無を言わさない低い声で言われる。
彼なりの不器用な気遣いが伝わってきて、遠慮なくおんぶされることにする。
そろりと細身の体に恐る恐る乗っかり、ぎゅっとしがみつく。
「……おっ…」
「えっ?今重いって言いかけませんでした?」
「…言ってない」
「いや言いかけましたよね!?動きも止まったし!」
「ぎゃあぎゃあ上で騒がないでよ。重いんだから落としちゃうだろ」
「やっぱり重かったんだーー!!」
ショックで雲雀さんの肩口に顔を埋める。
あ、いい匂いする。
上に乗りながら景色を見てるのも飽きたので、歩くたびふわふわ揺れる目の前の黒髪が面白くてつんつんと触ってみる。
なんだか鳥の巣みたいで可愛い…!
「…なにしてるの」
「雲雀さんの髪の毛って可愛いですね」
「……そう?」
「はい!鳥の巣みたいで!」
「落とされたいようだね」
そういった途端私を抱える手を本気で緩めはじめたので慌ててしがみつく。
「冗談じゃないですか!」
涙目で必死に訴えれば、仕方ない、というようにまた抱きかかえ直してくれた。
「ふふっ」
「?」
「雲雀さんて、意外と優しいんですね」
ぎゅっとしがみつきつついえば、ムスッとした顔をしている。
その頬が少し赤く見えたのは気のせいだろうか。
彼の背中が居心地良すぎてか、気づいたらおんぶされながら寝てしまっていた。
――ホテル前
「雲雀さん!と、ナギ!って雲雀さんの上で寝てるー!?」
「草食動物、これで貸し1つだよ」
そういって背中で寝ているナギを沢田綱吉に渡す。
「あ、ありがとうございます」
そういって草食動物達はナギを担ぎながら見つかってよかった、などと口々に話している。
「ちなみに、怪我してるから大切に扱ってやりなよ」
「えぇ!?怪我してるの?」
そういって慌てている連中を横目に、自分のホテルへと歩き出す。
ふと気づけば辺りは真っ暗になっていた。
誰かを気遣ったり、冗談を言い合ったりだなんて、いつぶりだろうか。
背中の重みを思い出しながら、彼女の笑顔を思い浮かべる。
(――この僕が、ね)
誰かのことを想うなんて、馬鹿馬鹿しい。
そう思いつつも、歩く足取りはいつも以上に軽快で、気分も高揚しているのがわかる。
今度、いつ会えるのだろうか。
いや、会いにいけばいい話だ。
そんなことを考える自分は、本当にどうしてしまったんだろう、と、ふんっと1人鼻を鳴らして暗がりの道をホテルまで歩き続けた。