長編

□もっと甘い嘘がいい
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普段から冷静で比較的落ち着いている雲雀さんですら、何故これがここにあるのかわからないといった珍しく驚いた表情をしていた。

写真は一枚だけではなく何枚もあり、
私単体のもの、私と雲雀さん2人のもの、
そして一番多かったのは雲雀さん単体のものだった。

2人の写真は、任務に行く途中や中庭で談笑しているもの、そして私の頬に雲雀さんがキスしているものまであった。
しかしどれも取り留めない様子ばかりだ。
戦闘している様子ならまだしも、
これを撮った意図がまったく掴めない。

それに…

「この写真を撮った人達は、どこに居たんでしょう…?」

「わからない。少なくとも敷地内にいたのだったら、僕や僕以外の奴らも気が付かない訳がないよ」

それほどの気配を消せる奴だとは思えないしね、と鋭い視線を写真に向けている。
それほどに守護者達と互角になるほど強いのならば、まずこんな姑息な隠れて写真を撮るなどという行為はしないだろう。

「この写真、拡大して」

雲雀さんに言われ、一枚の中庭の写真をズームする。
私と雲雀さんが、大きな木の下で話している写真だ。
普段の日常、なんてことのない写真だ。

「…そうか…」

「この写真がどうかしたんですか?」

「…よく加工してあるけど、この画像とても荒いだろう?」

確かにズームしてわかったことだが、普通の写真にしては荒いかもしれない。

「恐らく80mは離れて撮影されたものだと思う」

「そんなにですか?」

「そうでないと、敷地の中にある中庭を気づかれないように撮影するなんて無理だからね」

周りの風景とのバランスがおかしかったのはその加工のせいだったのだと納得する。

「それに…ぎりぎりこの高さから見下ろせる建物はボンゴレ内にはない」

角度は斜め上から見下ろすように撮られている。
かなりの際どいところから撮影されていたのが見て取れた。
では、

「何故そこまでしてこの写真を…?」

「…それは、わからない…」

眉間に更に深く皺を寄せ、怒りも含んだような表情をしている。
私としては逆に状況がわからなさ過ぎて目の前のことを把握し理解する事に必死だ。


『ナギ、大丈夫?聞こえる?』

すると突然、無線機からボスの少し切羽詰った余裕のない声が聞こえた。
混乱していた時だっただけに思わずビクッとしてしまう。

そんな私を見て心配してか、雲雀さんを寄り添うように肩を抱いてくれる。

『はい、聞こえます』

『良かった…。もう時間過ぎてるのに帰って来ないから何かあったのかと心配になっちゃって…。』

はぁー、と心底ほっとしたようなボスの声が聞こえる。
相当心配してくれていたんだというのが伝わってきて、嬉しさでふっと頬が緩む。

『大丈夫?』

『今のところ大丈夫なのですが…少し気になるところがありまして』

『気になるところ?』

とボスが答えるのと同時に、無線機を雲雀さんが私から取り上げる。

『そのことについては後で話すから。
時間がないから外すよ』

『え、ちょっと待』

まだボスが話しているらしき声が聞こえるのに、それをお構いなしに口元から外してしまった。

「この件については後で調べるとしよう。まずは本来の任務を達成させなきゃね」

そういって目の前のパソコンの電源を切り、奥の大きなモニターの前へと進む。
遅れを取らないよう、少し小走りで追いかける。

腕時計を見れば大分時間が過ぎてしまっている。
このままでは敵に気づかれる可能性は格段に上がってしまう。

そしてモニターの前に立ったが、そのまま雲雀さんは画面に向かって突き進んで行く。
するとふっと画面の中に姿を消した。

…まさか…幻覚…!?

全く気が付かなかった。
そのまま自分もモニターに向かって突き進めば、すんなりと足を踏み入れられすっと周りの風景が変わっていた。

すると視界が一気に暗くなる。
すっと腕を引かれる感覚がして、思わずひゃっと情けない声を出してしまったがすぐに僕だよ、と雲雀さんの声が聞こえて安心した。

「幻覚だったんですね…」

「向こうには相当の術士がいるようだね」

何故かはよくわからないが、霧の属性にやけに詳しい雲雀さんにはすぐに見破れたらしい。
しかしよほどの手練でなければここを通る事すらできないだろう。


そして、暗がりを慎重に奥へと進む。
暗くて足元が覚束ない。
するとなにかの線に足をひっかかる感覚がして、そのまま前に倒れこみそうになる。

「わぁっ!?」

バランスを取ろうにも足が絡まってしまっているので取りようがない。

なんでこうなるの……

諦めたように体の力が抜ければ、ポスッと包まれる感覚がする。前を歩いていた雲雀さんが気づいて支えてくれたようだ。

「す、すみません…」

「全く君は……
本当に、目が離せないよ」

クスッと笑う声が聞こえる。
自分の不注意さに情けなくなった。
雲雀さんに助けられてばかりで、むしろ足枷になっている気がする。
今日自分が役に立ったことなど一個もない。

ボスにも心配かけるわで、なんて自分は半人前なのだろう、と思う。
こんなでボンゴレの一員になりたいだなんて、誰が聞いたって呆れるに決まっている。

はぁ…と1つ深いため息を吐いた。
俯き加減で慎重に雲雀さんの後を付いて行く。
すると突然ピタッと目の前の背中がとある場所で止まった。


「君には君にしかできない仕事があるでしょ?ほら、ここに情報システムがある」

私を誘導するように1つのパソコンの前に連れていかれる。
私が不安に思ったのを察したかのように、さらっとフォローされる。
彼の不器用な優しさが伝わってきて気持ちが楽になる。

「はい…!」

気合を入れて作業をしよう、としたその時。


ガチャ…


「誰かが入ってくる、まずい」




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