長編

□もっと甘い嘘がいい
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「昨日は、本当にごめん!」

「え、何でボスが謝るんですか!?」

翌日執務室に行けば早朝からボスに全力で謝られてしまった。

「だって、俺が無理やり食事に誘ったから…
嫌な思いしたでしょ…?」

そういって、ボスが眉間に皺を寄せ本当に申し訳なさそうな表情で見つめてくる。

「リボーンさんと打ち解けられないのは、私の問題ですし!昨日の食事も、ボスは全く悪くないです。
むしろ、私が入ったことで雰囲気を乱してしまってすみません」

気まずい空気にしてしまっていたのはむしろ私がいたからなのだ。
ボスとリボーンさん2人でいれば、もっと楽しく食事出来ていただろうに。

なのにボスは慌ててそんなことない!とブンブンと手を振っている。

「…俺は…ナギと一緒に居られて、嬉しかったから」

そう言う私に、にっこり笑ってそんなことを言ってくれる。
ボスの笑顔に鳩尾あたりがきゅん、となって思わず顔が熱くなり視線を逸らした。

「そ、そういえば!昨日あんなに飲んで大丈夫でしたか?」

彼に見つめられるのに居た堪れなくなり、話題をさりげなく変える。

ボスはあぁ、そういえば、と言った後、ニヤリと口角を上げた。

「頭が少し痛いかもしれない。それに少し胃もたれして気持ち悪いし…」

「…え?」

全然そんな風には見えないけど…と内心思う。
なによりボスの表情は楽しそうだ。

「…大丈夫ですか?」

とりあえず、ボスに近寄り容態を診ようとする。
ここに入ってから女性が少ないためかファミリーの健康管理も任されるようになり、多少の医療知識は覚えた。

何の薬がいいかな、と腰に付けている医療用ポーチを漁りながら考えていると、
ぐいっと引き寄せられる。
そして耳元で、

「心配してくれるの?」

と低く囁かれる。
彼を近くに感じる、というだけで心臓がばくばくと煩い。

「…は、はい…もちろん…」

答えつつ見上げれば、当然の如く間近で眼が合う。
柔らかい橙色の瞳を見つめれば、更に心拍数は上がってしまう。

「…じゃあ…薬、ナギが飲ませて」

「ええっ?」

突然のボスの大胆な発言に吃驚してしまう。
目の前で至って真剣な表情で、優しく見つめられれば冗談ではないのかと察する。
どぎまぎしながらうろたえていると、頬に手を添えられる。

「…俺、頭痛いんだけど?」

笑いながら言われるも、何故かその笑顔が黒く見えるのは気のせいだろうか…
妙な威圧感を感じる。
嫌、半分からかわれているのかもしれない。

「…どうやって、ですか…?」

緊張にどもりながらも、痛み止めの薬を手にする。
何故私に飲ませて欲しいのかはわからないが、ボスがして欲しいと言うのなら応えてあげたいと思ってしまう。

「どうやってでもいいよ…?」

悪戯半分の余裕の表情で、私を見下ろすボス。
普段の優しい包み込むような笑顔と違って、少し大人に見える。
そんな表情にもどきどきして、見惚れてしまう。

そしてボスは私の腰を更に引きよせて、

「できれば口移しがいいな」

と低く囁く。
驚きで体が硬直する。
密着する体からは伝わる体温に体の熱が抑えられない。
自分の心臓の音が相手に伝わっているんじゃないだろうか、というほど。

緊張で震える手を自制して、近くにある水のペットボトルに手を伸ばす。
そして薬と同時に水を口の中に勢い良く流し込む。
それは、なんてね、冗談だよ、とボスがいつもの笑顔に戻ったのと同時だった。

私が薬を本当に口移ししようとするのを見て、自分で言ったのにも関わらず吃驚した顔をしてるボス。
そして勢いのまま、目の前のネクタイを引っ張りその驚いた表情のままのボスの唇に薬と水を含んだ口を押し付けた。

舌で水と薬を相手の口に無理やり流し込み、唇を離そうとする。
ゴクッと飲み込む音が聞こえた。
なのに、頭をがっちりと支えられ離すどころか舌を入れられる。

自身の舌を捉えられ、優しく絡ませられる。

「…んんっ…」

呼吸ができない上に、厭らしいほどの舌遣いに体の力が抜けてしまう。
そんな体を支えるようにぎゅうっと強く抱きしめられた。

「――んぷっ、…はぁ…ボ、ス…」

ようやく口が解放されたと思った時には全身の力が抜け切っていて、彼の体に自らしがみついていた。

ボスの表情を見れば、頬を僅かに上気させ色っぽい表情をしていた。

「はぁ、…ナギ…俺……」

ボスが何かを言いかけた時、


ガチャリ


何の断りもなく、誰かが入ってくる気配がする。

「…2人とも、何してるの」

振り返れば、最高、いや最悪に不機嫌な顔をした雲雀さんが立っていた。
慌ててボスと抱き合っていた体を離す。

「ひ、雲雀さん!」

「沢田綱吉、僕を呼んでおいて…
わざと見せ付けたのかい?」

雲雀さんはそういいながらボスのことを冷ややかに睨みつけている。

「す、すみません!あの、これは違くて…って、いや違くないんですけどっ」

ボスは顔を真っ赤にしながら慌てている。
私も先ほどのことを思うと恥かし過ぎて顔を上げられない。
まったく自分は何をしてしまったんだろうか…!

「じゃあ何で僕を呼んだの?」

もう苛々が最高潮なのが前面に出ている雲雀さんに、

「そうだ!雲雀さんとナギを呼んだのは、2人で任務に行ってもらおうと思っていたからなんです」

そういってボスは真剣な表情で山積みの書類をガサガサと書き分けとある一枚の紙を私と雲雀さんに渡した。














任務の内容は、先日同盟破棄をしたファミリーが以前交流があった際に使っていたボンゴレの機密情報を未だ消しておらず悪用しているとの事で、それを削除してきて欲しいとの事だった。

簡単に言えば、敵の情報機関のボンゴレの部分だけを破壊してくれば良いとのこと。
全面戦争になる前にこれで事が済めば、というのがボスの本心なのだろう。
実際それは中々難しいだろうが…


集合は30分後……


戦闘は基本しないが最低限の護身用の武器だけは揃える。
そして今回私が選ばれたのは勿論システム破壊のためだろう。
それに備えての準備を抜かりのないよう万全にする。
そして医療用のセットも、パートナーが雲雀さんならほとんど必要ないように思うが最低限用意する。


今回は目立たないように遂行することが求められるため少人数だが、もし見つかった場合はそれが仇になる。
敵ファミリーの本陣に行くのだから、見つけられれば一溜まりもないだろう。

油断はできない、と自身に気合をいれるため頬をぺちんと一回叩き、雲雀さんの待つ集合場所へと向かった。




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