長編

□unusual days!
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リボーンの後を付いて行くと、ホテルから少し離れた川辺の公園に着いた。
辺りは真っ暗で、街灯の僅かな明かりのみが川面に反射して光っている。

リボーンを見れば、何故か俯いている。どうしていいかわからない。
改めてリボーンと話そうとすると、言葉が見つからない。修学旅行に来る前に酷いことを言ってしまったことを思い出し、謝ろうにもどう切り出していいかわからなかった。


「お前、怪我どうした?」

「…あぁ、ちょっと転んじゃったの」


突然リボーンが口を開いたので思わず体がびくりとした。大丈夫だよ、と心配させないように力なく笑う。そのせいでかお腹の怪我がずきん、と痛んだ。


「それ、転んだんじゃねーだろ」

「…え?」


リボーンの言葉に耳を疑う。それにそもそも、腕の傷なんて洋服で見えないはずなのになんでわかったんだろう…


「腕ならまだしも、お腹なんて転んで怪我しようがねぇからな」

「な、んで…、お腹も怪我してるってわかったの!?」


腕は愚かお腹の怪我まで気づかれていたなんて…。ごくり、と唾を飲みこむ。


「俺は世界一のヒットマンだぞ?わかるに決まってんだろ」


そういってにやりと笑いながら此方に向かって歩いてきた。
その自信満々な普段どおりの振る舞いに、何故か安心して頬も緩む。


「誰にやられたんだ?」

「いや、勘違いだったんだけど…雲雀さんと、ちょっとね…あはは」


雲雀さんは悪くないんだけど、と庇うように付け足すと何故かリボーンは顔を顰めた。


「俺のせいだろ?」

「え?」

「あいつのことだから、俺の生徒と試してみたかったとかそんなだろ」


ずばりと言い当てられ、しかし肯定することも否定することもできない。事実、リボーンが悪いわけでも雲雀さんが悪いわけでもないのだから。

何も言えず俯いていると、リボーンが私の怪我をしている方の腕を取り労るように撫でた。


「俺が守れなくて、悪ぃ」

「…え…」


予想外の台詞にどきりとする。目の前のリボーンの顔を見れば、なんだか少し苦しそうな、悲しげな顔をしていた。

「…リボーン…、私…」

ぎゅっと拳に力が入る。ちゃんと、言わなくちゃ。


「悪かった」


私が言おうと口を開いた途端、先に言ったのはリボーンだった。


「お前が修学旅行に行く前…何度も謝ろうとしたんだが結局言えなくてな。
いくら冗談とはいえ、お前にあんなに嫌われるとは思ってなくてすげー後悔したんだ」

「違うの!嫌ってなんかないの…。謝らなくちゃいけないのは私なの」


リボーンの綺麗な済んだ瞳を見据える。あまりにも真っ直ぐ私を見つめ返す瞳に逸らしたくなるけど、心の中で逃げちゃだめだ、と自分に渇を入れる。


「本当はリボーンのこといらないなんて思ってなくて、あれからずっと心がもやもやしてて…
酷いこと言ったり、あんな態度取ったりしてごめんなさい」

「…ナギ…」

「私にはリボーンが、必要だから…」


私の言葉に、目の前の瞳孔が少し開かれた。
驚いているのかもしれない。
リボーンに対して、こんなに素直に自分の気持ちを言ったのはきっと初めてだろう。

目の前の表情は固まっていたけど、しばらくしてん?と怪訝な表情に変わった。


「お前が俺を嫌ってないのはわかった。じゃあ、なんであんな態度取ったんだ?」

「…いや、それは……」


思わず目を逸らす。その核心的なところは触れて欲しくなかったのに!
あの時以来からリボーンを意識して話せなくなって、むしろ見惚れていただなんて…
絶対に言えるわけがない。


「なんでなんだ?」

「…うぅ…」


じりじりと詰め寄られる。こういう時、リボーンはいじわるだ。何故か表情も生き生きとしているように見える。


「ひ、秘密…」

「ほぅ…。ただ、俺もお前に避けられてひとつわかったことがあるぞ」

「え?」


そういって、私の顎を捉えくいっとリボーンの顔に近づけられるように上を向かせられる。


「俺も、お前が必要だ」

「…え…?」

「後悔したくなくて、失いたくなくてここまで来たんだ」

「リボーン…」


リボーンの目は真剣で、その漆黒に思わず吸い込まれそうになる。息がかかるほど距離が近くて、心臓がばくばくと煩くて割れそうだ。
そしてムカつくほど整った顔が、私に近づいてきて……

こ、これって…目を瞑った方がいいのかな、などと思って瞼を閉じようとしたその時、


ヒュ――――
    ド――――ン


間近で突然大きな花火の上がる音がした。

2人同時に音がする方へと顔を向ける。
すると大きな割物花火が上がっていた。


「…綺麗……」


パラパラパラと散る光に目が釘付けになる。
花火大会でもやっているのだろうか。
ああ、もうすぐ夏が来るんだ、と思った。

隣のリボーンを見ると、同様に花火に釘付けになっている。そんなリボーンを花火のカラフルな光が照らし、光っていてそれは花火よりも綺麗に見えた。

しばらくしてからじっと見つめる私の視線に気づいて、此方に顔を向ける。そしてふっと柔らかく笑った。
こんな表情のリボーンを見たのは初めてで、心臓が鷲掴みされたような感覚がした。


「ねぇ、リボーン…」


きっとこれから、私には想像もできないほどの辛いことがいっぱい待っていると思う。
会社のことも、ボンゴレとのことも。
でも、きっと、
リボーンがいれば、大丈夫だって思える。
だから…


「これからも、ずっと側にいて…」


思わず口から零れた言葉は、発したのと同時に上がった大きな錦菊の花火の音にかき消された。
はずなのに、もちろんだぞ、と、再び上がった大きな花火の音に紛れてリボーンの声が聞こえた気がした。




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